その後、しのぶは家族を説得して、現場の看護業務ではなく事務仕事を担うかたちで復帰。看護婦の評判を落とす許しがたい悪質な業者への怒りが、職場復帰のエネルギーとなったようだ(第23週「歩々清風」第113回)。
実際にも、悪質な業者がはびこっていたらしい。直美のモチーフとなっている鈴木雅が派出事業を立ち上げて、しばらくしてから、りんのモチーフとなっている大関和が合流。ドラマと同じく2人は奮闘することになる。
だが、日清戦争後に看護婦の仕事が周知されるようになると、医療や看護の知識がないのに看護婦派遣の事業を始める業者が次々と現れたという。
看護婦の格好だけさせて派遣した業者も
この頃はまだ、看護婦については公的な免許や資格制度がなかった。雅が立ち上げ、和も加わって切り盛りしていた東京看護婦会では、3年の年月を費やして看護婦を育成するようにしていたが、悪質な団体は研修すらろくに行っていなかったという。
なかには、ただ看護婦の格好だけさせて利用客のもとに送り出していた業者もあったというから、呆れるばかりだ。「風、薫る」でしのぶが怒りを募らせていた状況は、決して大げさな描写ではなかったことがわかる。
恐ろしいのが、派出看護婦のシステムでは、病院のように医師の判断が随時、入るわけではないということ。見かけだけの看護婦が患者の家に直接送られるとなれば、依頼主のトラブルや医療事故が増えることは言うまでもないだろう。
こんな状況に危機感を抱いた和は、内務省衛生局に何度も足を運び、衛生局長の後藤新平に会いにいき、看護婦資格制度の制定を訴える陳情を行った。医師のような資格制度を確立することで、資格のない看護婦を取り締まってほしいというのが、和の主張だった。
後藤から「3年をメドになんとかしますから、しばらく待っていただけませんか」と言われると、和は「3年も待っていられません!」と反発し、涙ながらに急ぎ何とかしてほしいと、後藤に詰め寄ったという逸話も残っている。
ドラマでは、りんと直美が衛生局の柳生(演:中村倫也)を訪ねて取り締まりを訴えた場面があった。まさにこの史実を踏まえたものと見てよいだろう。


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