もともとは30年ほど前から海外で医療従事者や心理カウンセラー、ソーシャルワーカーなどの対人援助職を対象に研究されてきた概念ですが、現在では日本でも、家族の介護を担う人々や、子どもの不登校・発達課題・日常の激しい癇癪などに寄り添い続ける親たち(ケアギバー)においても深刻な問題となっています(2022年国民生活基礎調査)。
2025年の海外での調査によれば、家族の介護やケアを担う人々の最大71.4%が、共感疲労の何らかの症状を経験しています。
特に、他人の感情に敏感な気質を持つ人や、使命感が強く「自分がこの子(家族)を何としても支えなければならない」という強い責任感を抱く人ほど、自らの心身の限界を無視して対象者に没入してしまうため、共感疲労に陥るリスクがとても高まることが指摘されています。
「過剰な同調」と「共感」の違い
ケアギバーが共感疲労に陥る過程において、決定的な分岐点となるのが、自己と他者の境界線の概念です。
他人の痛みを敏感に察知し、深く優しく寄り添うことができる共感能力は、人間社会の絆を支え、ケアを提供するうえで必要不可欠な素晴らしい才能です。
しかし、自他の境界線を失うと、自己破壊的な過剰同調あるいは「情動伝染」と呼ばれる現象へと変容してしまいます。「健全な共感」とは、他人の悲しみや苦痛を正確に推測し、その感情を理解しつつも明確な「自他の境界線」が維持されている状態を指します。
すなわち、「目の前の相手はいま、耐え難いほどの悲しみを感じている」と共鳴しながらも、自分自身の感情、感覚、認知を保てている状態です。
これに対して「過剰同調」は、自分と相手を隔てる境界線が消え去り、相手のマイナス感情の中に自分自身が吞み込まれてしまう状態です。この状態に陥ると、「自分がいまどうしたいか」「自分は本当はどう感じているか」という自分を軸とした意思や感覚は消失し、「相手がどう思っているか」「相手はどう感じているか」が自分の感情を支配してしまいます。
日常的な育児や対人支援の現場において、この健全な共感と過剰同調はあまり意識されていませんが、その原因と結果は大きく異なります。


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