前編では、ペロブスカイト太陽電池の研究開発の第一人者である、若宮淳志・京都大学教授が、研究の基礎から技術の特性、導入事例について詳述する。
ペロブスカイト太陽電池については最近、メディアを通して見聞きする機会が多くなってきたかもしれない。塗って作れて、軽量かつ柔軟な形状を持つ、日本発の次世代型太陽電池である。日本政府も、ペロブスカイト太陽電池を重要な国産エネルギー源として位置づけ、国家の経済安全保障の象徴的プロジェクトとして積極的な支援を進めている。
私たち(若宮ら)は、黎明期からこのペロブスカイト太陽電池の開発研究に取り組んできた。学術研究の観点から、ユニークな材料の本質を明らかにするとともに、材料化学の観点からこの太陽電池の高性能化に貢献してきた。
2018年には、京都大学発スタートアップとして、エネコートテクノロジーズという企業を設立し、その実用化にも取り組んでいる。本稿では、これまで開発研究の最先端で取り組んできた立場から、ペロブスカイト太陽電池の特徴と実用化に向けた動向と課題について紹介する。
ペロブスカイト太陽電池の技術的特性
太陽光などの光を電気エネルギーに変える──これが太陽電池である。その光電変換材料としてABX3型構造で表されるペロブスカイト半導体材料を用いるのがペロブスカイト太陽電池である。09年に、桐蔭横浜大学の宮坂力教授らが世界で初めてその可能性を見出した日本発の技術である。
ペロブスカイト太陽電池の名前の由来は、その心臓部である光電変換材料に用いる「ペロブスカイト」と呼ばれる結晶構造にある。この構造は、一般に「ABX3」という化学式で表される。これをイメージしやすく例えるなら、「立方体のジャングルジム」のような構造である。プラスの電荷をもつAサイト(有機アンモニウムなど)およびBサイト(鉛や錫のイオンなど)のイオンが、その「角(かど)」と「中心」に位置し、マイナスの電荷をもつXサイト(ヨウ素などのハロゲン化物)のイオンが「面」に配置された3次元の構造を構築する(下図参照)。

この構造の最大の特徴は、比較的「柔らかい構造で、自由度が高い」という点にある。
従来のシリコン型太陽電池の結晶は、ダイヤモンドのように極めて強固で、歪みが許されない「ガチガチの構造」である。そのため、作る際にも1000度を超える高温処理が必要であった。
一方で、ペロブスカイト構造は、構成する成分が比較的自由に動けるゆえの「柔らかさ」を持っている。その柔軟性のために、「インクを塗って乾かすだけ」という手軽な方法でも、驚くほど高品質な結晶が勝手に組み上がり、優れた発電効率を発揮できるのである。まさに、自然界が作り出した「自己組織化」という魔法のような仕組みが、そのABX3という形に凝縮されている。
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