筆者は、しばらく売り場を観察してみた。カゴを持った客は、まず売り場の横に置かれた無料の白い箱を手に取る。潰れにくく、そのまま土産にできる箱だ。買い物のついでに1個、ではない。最初から箱で買う前提の設計になっている。
県外からの客も多い。当初はネットで調べて来たという親子連れは、「熱海に来たら大量に買って冷凍する」という。
地元の人は、「栗が人気なのは知っているんだけど、私はメープルが好き」と言いながら、2個をカゴに入れていた。
印象的だったのは、父親の墓参りのついでに訪れたという母娘だ。最初に数個を手に取り、店内を回ってから売り場に戻り、また買い足す。最後には箱いっぱいの蒸しパンを抱えていた。一度では決めきれない、という買い方だった。
物理的に「熱海でしか買えない味」
蒸しパンの賞味期限は製造から48時間。楽天市場でも販売しているが、北海道や九州、離島からの注文は受け付けていない。届く前に期限が切れるからだ。
チェーンスーパーの商品でありながら、この蒸しパンは全国流通できない。だがその制約こそが、「熱海でしか買えない味」という価値を担保している。熱海商工会議所が土産品として認定する「ATAMI COLLECTION A-PLUS」に栗味が選ばれているのも、その裏付けだろう。
効率化できなかったことが、そのままブランドになった。


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