「薬は本来、微量で人体に生理作用を及ぼす『生体にとっての異物』です。厳格な安全性の評価を経て、有効性を得つつ副作用を最小限に抑える使い方が定められています。しかし現在、SNSを介して処方薬や市販薬が不正に流通し、用法や用量を無視したODが10代の若者を中心に広がっています」(吉田教授)
入り口を塞ぎ、生きづらさに寄り添う
不正流通を根絶するには、どのような対策が必要か。
吉田教授は「供給源から末端の取引、そして受け手の支援に至る包括的な対策が必要」と説く。
「まずは、過剰処方やオンライン診療の悪用、自由診療での無制限な処方といった『不正な供給源』を断ち切らねばなりません」
不正流通の場となるSNSでは、プラットフォーム事業者が投稿や出品を早期に検知し、削除やアカウント停止などの対応を徹底することが必要。隠語やテレグラムなどへの誘導といった抜け道に対して、一つ一つ潰していく水際作戦が求められるという。
「さらに、子どもの頃から医薬品について正しい知識を身につける教育も欠かせません。薬は正しく使えば有効ですが、過剰摂取すれば、肝臓や心臓に障害が起きたりして、最悪の場合は死に至る可能性もあります。そうした知識を子どもの頃から伝えていくことが大切です」
一方でODを繰り返す若者の中には、日々の生きづらさを抱えている人が少なくない。
「そういう若者に、頭ごなしに『危ないからやめなさい』と言うだけでは届きません。背景にある生きづらさに寄り添い、メンタルケアや支援につなげていく体制の整備が重要といわれています」(吉田教授)
前出の清水さんは、薬の不正流通をなくすには「各販売経路を横断した管理が必要」と指摘する。現在は薬局やクリニック、インターネットなど、それぞれの販売経路が独立しており、横断的な情報共有の仕組みがない。こうした状況を改め、国レベルで規制や管理体制を整備すべきだ、という。
「オーバードーズ(OD)に悪用されやすい薬の購入・処方履歴を確認できる仕組みが必要です。マイナ保険証などを活用し、市販薬も含めて一括管理の体制をつくるべきです」
薬に手を伸ばす若者を「自己責任」で片付けることは簡単だ。だが、問われているのは、個人ではない。社会全体の向き合い方だ。
(AERA編集部・野村昌二)

