だが問題はもちろん、お金とはそんなに簡単には手に入らないということでありまして。常に自己研鑽を怠らず、競争を勝ち抜き、あわよくば自分を大きく見せ、数々の理不尽に耐え、イケ好かない相手ともニッコリ付き合い……と、要するに人生の貴重な時間とエネルギーをエンドレスに犠牲にし続けなければ、お金をいただくことなどできやしない。
そしてさらに問題なのは、そのようにして一生懸命手に入れたお金も、何かを買えばいとも簡単になくなってしまうということだ。
となればイバラの道はいつまでもどこまでも終わりがなく、ふと気づけば、幸せになろうと頑張るほど、なぜか人生はキツい灰色の時間で埋め尽くされてしまうという妙なことになっている。なっているんだが、そんなことをいちいち気にしていちゃあダメなのだ。だって、気を抜いてたらすぐ競争に負けちゃいますからね。クヨクヨしているヒマがあるならその分、自分の評価を上げて少しでもお金を得ることに時間もエネルギーも注ぎ続けるべきなのだ。
ってことで、私は頑張った。そしていろいろなものを買った。むろん、頑張ったからといって欲しいものがすべて買えるわけではなく、私はそれをいつも残念に思った。できることならもっともっとたくさんのお金を稼ぎ、買いたいものをなんでも買える自分になりたかった。私はさらに頑張った。何事も諦めてしまえばおしまいである。なりたい自分になるためには努力を惜しんではならない。それこそが正しい生き方というものだ。
「勝ち目のない努力」を永遠に続けるのか
ところが。
ま、いろいろありまして、私、このような人生から「降りる」ことにしたのである。
具体的には、50歳で会社を辞めたのだ。
何だかね、ちょっと疲れちゃったんですよね。努力を惜しまず競争から逃げず頑張り続ける人生は、決して簡単ではなかった。というか、苦しかった。たぶん時代もよくなかったのだ。入社直後にバブルが弾け、それからは日本経済も会社の調子もずっと下降線。世の中はどんどん世知辛くなり、我が社でも年を追うごとに、社員は「共に働く仲間」というより「相互に監視し合う対象」となっていき、少しの失敗も許さぬムードが高まり競争は苛烈になる一方であった。


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