人によってトラウマになる経験やその程度が違うように、トラウマからの回復にも個人差がある。その違いは、どこから生まれるのだろうか。白川さんは、「トラウマから回復できるかどうかのカギを握るのは、本人の強さや性格ではなく、根底にある家庭環境と体験のあとに得た学びや社会的な支えです」と話す。
なかでもトラウマから回復していくうえで欠かせないのは、「安全の確保」だ。
加害者や危険のある環境から離れ、安全な関係の中に身を置く。自分の感情を安心して表せるようになって初めて、前述したような凍結された記憶を小さくし、整理していくことができる。
「患者数4万人は氷山の一角」の理由
■日本のPTSD患者数
医療機関で把握されている日本のPTSD患者は、約3万5000人(2023年度NDB調査)といわれる*4。しかし、これは氷山の一角でしかない。
実際、アメリカで重度の精神疾患をもつ患者275人を対象にした研究では、98%が何らかのトラウマを経験し、43%がPTSDの診断基準に該当したが、カルテにPTSDと記載されていたのはわずか2%だった*5。
こうした状況に対して、トラウマへの社会的認知は進みつつあるものの、それでもなお「きちんと診断されていないケースが多い」と白川さんは指摘する。「そんなことを話していいんですか? 関係があると思っていませんでした」とは、患者がよく口にする言葉だ。
「トラウマになった記憶は、映像や音、におい、身体感覚といった形で残りやすく、また、関係があると思いたくない、関係づけたくないと回避していることもあり、言葉として整理されていないことも少なくないのです」
だからこそ、十分な知識を持つ専門家のもと、安全が守られ、本人のペースや意思が尊重された環境で、体験を少しずつ整理していくことが大事だという。


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