しかし、「私たちが診ている現場では、ショックトラウマによるPTSDだけでは説明しきれないケースが数多く存在します」と白川さんは言う。それが「関係性トラウマ」や「発達性トラウマ」という考え方だ。
■関係性トラウマとは
関係性トラウマとは、“本当はこうあってほしい関係性”が、そうでないことによって引き起こされる。児童虐待やDVなどが典型例だ。
わかりやすいのは学校や職場でのいじめだろう。クラスメートや同僚に話しかけると、皆がすっと立ち去る、あるいは自分がトイレや休憩室に入った途端、弾んでいた会話が止む……。これらは命の危険や激しい恐怖を伴わなくても、当人にとっては大きな苦痛だ。
特に後に述べるような児童期逆境体験がある人は、この体験を乗り越えることが難しく、フラッシュバックすれば恐怖から学校や職場に行けなくなったり、体調を崩したりする。
幼少期のつらい経験がきっかけに
■発達性トラウマとは
一方、発達性トラウマは、乳幼児期や児童期の成長過程での逆境体験に起因する。
虐待やネグレクト、親の離婚、家族の精神疾患、アルコール問題など、18歳までに経験する逆境は、ACE(Adverse Childhood Experiences:児童期逆境体験)と呼ばれる。
幼少期はつらい経験を自覚しにくいが、トラウマになるような体験は自己認識や対人関係、心身の発達に長期的な影響を及ぼしやすい。成長してからも自己肯定感が低く、うつ病や薬物乱用、自殺など、さまざまな問題として表れることがあるという。
■日本におけるACE経験者の数
世界精神保健日本調査(WMHJ)の12項目の逆境体験リストによる調査では、日本のACE経験者は3人に1人とされる*1。また、京都大学が2万人を対象に行ったACE10項目の調査では、日本における児童期のACEの経験率は38.4%だった*2。
さらにACEの10項目に、いじめや貧困、自然災害などの5項目を加えて作成した拡大版ACEについて、東京大学の研究者らがインターネット調査(JACSIS)のデータを用いて約2万8000人を対象に行った調査では、15項目のうち1項目以上にACEを持つ人は約75%にのぼっていた*3。
※これらのデータ結果は、調査によって設問項目が異なる。


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