じめじめした暑さの夏には、水分が多く体を冷やす効能があるきゅうりやトマト、茄子をよく食べる。食べ物が腐りやすい梅雨時は境内で採れる大粒の梅を、水煮にして味をつける。冬が旬のほうれん草は甘味が豊かな赤い根っこも捨てずに料理する。
賄いの青じそのおばんは香りが命。ご飯が炊きあがってから、境内の畑に走って青じそを採ってくる。
「走って作るから、御馳走なんです」と、西井さん。
そう、西井さんの食卓は残り物ではなく、旬の御馳走なのである。
長寿の秘訣は、「世間の健康情報」に振り回されることではない
睡眠時間は4〜5時間。肉や魚は食べず、“残り物”の1日2食。現代の栄養学やアンチエイジングのセオリーから見れば、規格外の食生活かもしれない。
私たちはつい「健康で長生きするためには〇〇を食べねば」と、頭でっかちな“栄養第一”の食事を取り入れてしまいがちだ。しかし、朝4時から厨房に立ち、毎日精力的に動く82歳のエネルギーを前にすると、その常識はあっけなく覆された。
終戦の前年に生まれた西井さんだったが、食糧難から母のお乳が出ず、栄養失調になったという。食べ盛りの成長期も日本中が食べ物がなかった時代だった。そういう時代を生き抜いて、西井さんは食の精神をはぐくんできた。
食べ物を粗末にせず、季節の恵みを余すことなくいただくこと。
世間の健康情報ではなく、自分の体の声に従うこと。
そして、献立に食材を合わせるのではなく、食材に献立を合わせること。
西井さんの“残り物”の食卓は、豊かな時代を生きる私たちが見失いかけている当たり前のこと、それが「真の豊かさ」であることを教えてくれる。


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