今回の問題から、今後、長崎県および長崎市が被ると考えられる損失や、失われる可能性のある利益について考えてみたい。
1つ目は、台湾人観光客によるインバウンド需要の減少である。
現在、台湾は日本にとって最大級のインバウンド市場の一つであり、訪日台湾人観光客は重要な旅行市場を形成している。長崎県の『長崎県観光統計』(令和6年=24年)によれば同県に宿泊した台湾からの観光客は延べ9万5398人、前年比で30.6%増となっている。
国別でみると、韓国の20万4100人に次ぐ2番目に多い(3位はアメリカ)。長崎県にとっても、台湾は重要な観光市場の1つであることは間違いない。
長崎市・県と台湾との経済的な距離
今回の問題を受け、台湾側では長崎市の対応を批判する声が上がっており、今後、台湾世論で長崎に対する心理的な距離が広がれば、長崎への旅行や宿泊を敬遠する動きにつながる可能性がある。いわゆる「長崎ボイコット」が観光業界や旅行者の間に広がれば、ホテル、飲食店、観光施設などが台湾人観光客による消費を失うことも懸念される。
2つ目は、熊本県へのTSMC進出を起点とするサプライチェーンや経済波及効果を十分に取り込めなくなるリスクである。
近隣の熊本県には台湾の半導体大手TSMCの子会社JASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)が進出し、九州では半導体関連投資が相次いでいる。九州経済調査協会の試算では、半導体関連設備投資およびそれに伴う生産活動による21~30年の九州・沖縄・山口地域への経済波及効果は23兆300億円とされている。
内閣府も、JASMをはじめとする九州の半導体関連の大型投資計画について、九州全体で最大約20.1兆円の波及効果があるとの試算を紹介している。
こうした半導体関連投資の波及は熊本県にとどまらず、九州各県にも及ぶとされている。長崎県・長崎市にとっても、関連企業の誘致や物流、人材交流などを通じて、その恩恵を取り込む機会がある。
しかし、今回の問題によって台湾の政財界や企業の間で長崎に対する印象が悪化すれば、将来的に台湾企業との連携や関連企業の誘致において、長崎が九州内で相対的に不利な立場に置かれる可能性も否定できない。今回の問題は、こうした「経済的な機会損失」のリスクを浮き彫りにしたともいえる。
3つ目は、自治体・民間レベルにおける日台の都市間交流や友好交流の停滞である。
長崎県内の自治体や民間団体は、教育、文化、スポーツ、観光などの分野で台湾との交流を積み重ねてきた。実際、日本台湾交流協会の自治体交流一覧には、長崎県東彼杵町と台中市和平区、長崎県平戸市と台南市の友好交流協定が掲載されている。
また、長崎大学も26年4月に台湾で交流会を開催するなど、教育・学術分野を含む人的交流が続いている。


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