2つ目は、李登輝・元総統と同時代の人物で、台湾民主化の象徴的人物である彭明敏(1923~2022年)氏の長崎での被爆という歴史的当事者性である。
台湾民主化運動・独立運動の指導者として知られる政治学者・彭明敏氏は、東京帝国大学法学部に入学。在学中に日本政府に徴兵され、長崎に向かう途中の戦場でアメリカ軍の爆撃を受けて左腕を失った。そして1945年8月9日、長崎で被爆した。
台湾にとって長崎の原爆は決して他人事ではなく、台湾の民主化を象徴する人物が被爆したという歴史的な当事者性を持つ問題でもあるのだ。そのため、「原爆の犠牲者を悼み、平和を祈るという共通の歴史的記憶を持つ台湾に対し、外交上の扱いを理由に一線を引いた」という長崎市の姿勢が、台湾世論の強い憤りにつながったと考えられる。
広島市との待遇の差
3つ目は、「広島市」との対応に明確な差があったことである。
8月6日の広島平和記念式典では、広島市が李逸洋駐日代表を「外交使節団エリア」に迎えたのに対し、8月9日の長崎平和祈念式典では台湾代表団が「国交の有無」を理由として、一般の国際機関などが配置されるエリア、すなわち大使らの後方に位置する席に配置された。
この明確な待遇の差により、「広島にできて長崎にできない理由はない」「長崎市の対応は意図的な格差、あるいは差別ではないか」との受け止めが台湾で強まったとみられる。
4つ目は、中国による「法律戦」への加担や、中国への忖度に対する強い警戒感である。
台湾社会では、長崎市が国交の有無や国連との関係を基準とした背景には、「中国への配慮や忖度があるのではないか」との疑念が広がっている。中国は、台湾の国際的な存在感を低下させ、台湾を国家として扱わない立場を国際社会に浸透させようとする外交・政治的な働きかけを続けている。
そのため、長崎市のような対応を無批判に受け入れれば、「台湾は国家ではない」という中国側の主張を補強する既成事実、いわば「長崎モデル」になりかねないとの警戒感がある。
台湾では、これを単なる式典上の席次の問題ではなく、国家としての存在と尊厳に関わる安全保障上の問題として捉える向きもあり、それが今回の怒りの根底にあると考えられる。
5つ目は、台湾世論における「片思いの親日」への深い幻滅と失望である。
台湾の人々は、東日本大震災や能登半島地震、さらには新型コロナウイルス禍におけるワクチン供与などを通じて、日本と「最良の友」としての絆を深めてきたという自負がある。
その一方で、今回の長崎市の事務的かつ硬直的な対応は、そうした親日感情や長年にわたる民間交流の積み重ねに冷や水を浴びせるものと受け止められ、「日本側、とくに一部の地方自治体は、台湾の友情や尊厳を軽く見ているのではないか」という幻滅感が怒りとなって噴き出していると考えられる。


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