原教授は「マウスで効果がみられなかった以上、遺伝的多様性が高く、生活の環境や習慣も多様な人で同じ効果を期待することは難しい。社会の関心が高いテーマだからこそ、画期的に見える研究成果でも慎重に受け止めるべきだ」と話す。
活発化する「老化細胞除去薬」の開発競争
「細胞老化」は元々、培養を繰り返しているうちに染色体の末端にあるテロメアという構造が短くなり、ついには増殖しなくなる現象を指していた。00年頃からは薬剤投与や放射線照射など、さまざまなストレスによって生じる細胞増殖の持続的な停止状態も広く「細胞老化」と呼ばれるようになった。
老化細胞の一部は、炎症などにかかわるさまざまなタンパク質(サイトカインなど)を分泌することが知られている。こうした老化細胞が加齢に伴って体内に蓄積し、がんを含むさまざまな加齢性疾患や生体機能の低下に関与する可能性が指摘されるようになってきた。
ここから、薬を使って老化細胞だけを選んで体内から取り除くことができれば、老化予防や若返りが可能になるのではないかという発想が生まれた。現在、世界中で「老化細胞除去薬」の開発が競われている。
原教授は40年近く細胞老化について研究しているこの分野の第一人者で、今回の論文以前に、これまでに報告された薬剤の効果を比較検討する研究に取り組んでいた。
体内から老化細胞を除去する場合、健康な細胞に悪影響を与えないことが重要だ。そこで、老化状態にした細胞に21種類の薬剤をかけて、老化細胞だけを選択的に除去できるかどうかを調べたところ、そうした高い選択性が確認できた薬剤はわずか数種類にとどまった。
選択性の低かった大半の薬剤の中には、中西特任教授らの研究グループが報告した薬剤も含まれる。このデータが得られた当時、原教授は日本医療研究開発機構 (AMED)の「老化メカニズムの解明・制御プロジェクト」の3拠点の1つでリーダーを務めており、中西特任教授も同じ拠点メンバーの1人だった。
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