一方、IRIを導入している企業では、この検知までの時間が平均30時間まで短縮されるという。
冒頭のTのケースで不正を検知できるのは、UEBA(ユーザーの振る舞いを分析する技術)だ。上長が「普段使わない共用端末」からのログイン、そして持ち出し申請から承認までが「わずか60秒」という、内容を確認した形跡のない不自然なスピード。こうした2つの異常な組み合わせに、システムがアラートを上げるようになっている。
もしこうしたサービスで検知されていれば、S田製作所は独自アルゴリズムを競合に渡すことなく、市場優位性を保てていたかもしれない――。
わずか「72件」の重大リスクと変化する持ち出し経路
Tのようなケースは、決して特殊な事件ではない。エルテスが年間に分析するログ件数は5605億件、対象ユーザーは延べ37万人に上る。この膨大なログのうち、システムが異常を検知し、専門アナリストが再分析した件数は11万3910件。
そのうち、ルール違反や不正の予兆が認められる「高」リスクは1万9507件。そして、組織に致命的なダメージを与えかねない「重大」リスクとして即座の対応が必要と判定された事案は、わずか72件だった。
「何千万回という正常な業務操作のなかに、たった1回の致命的な不正が紛れ込んでいる」。エルテスはこの構造をそう表現する。膨大な“平常”のノイズの中から、この一件を見逃さないことこそが、内部脅威対策の本質だという。
Tは共用アカウントという“組織の隙間”を突いたが、情報の持ち出し経路そのものも、この10年で様変わりしている。
「以前はUSBメモリーなどの外部記憶媒体が中心でしたが、今は個人利用のクラウドストレージやWebメール、生成AIサービスへの入力など、業務でも日常的に使われているサービスが新たな経路になっています」(野口氏)
中でも最も検知件数が多いのが、個人契約のクラウドサービスだという。GoogleドライブやGメールは誰でも簡単にアカウントを作れるため、企業の端末からアクセスしてアップロードするケースが多く見られるという。
Boxなど法人向けクラウドストレージであれば企業側の管理下に置けるが、個人アカウントとの判別が難しい無料サービスは、監視の網をすり抜けやすい。

