しかし店を構えてみると、その選択は思いがけず、この街の魅力と重なった。
「横浜といえば、みなとみらいや山下公園、関内、桜木町など、海沿いの華やかな風景が表玄関として知られているんですけど、阪東橋や横浜橋通商店街の周辺には、観光地とは異なる、生活の匂いが濃く残っています。ここは横浜の裏側なんでしょうね。雰囲気がちょっと特殊です。アジア的ですし、多様性はすごい。横浜でも本当に珍しい街だと思います」
そんな雑多さの中に、加茂さんの店はよくなじんでいる。大型書店のように何でもそろうわけではないが、海外文学など、店主が選んだ本が棚に並ぶ。「町の本屋というほどオールマイティには置けないですけど、少しずつ入れ替えながらやっています」と加茂さん。
さまざまな国の食材や言葉が行き交う商店街の一角で、見慣れない一冊に出合えることも、この街らしい楽しみのひとつだ。
外国人に柔軟な街
加茂さんの店にも、近所の人だけでなく、SNSで店を知った人や、横浜でのイベント、観光のついでに立ち寄る人が訪れる。
「ここだけを目的に来る人ばかりではないですけど、横浜に来たついでに本屋を探して、足を延ばしてくれる。こういう形態の書店を好きな方が、一定数いらっしゃるんです」(加茂さん)
阪東橋駅周辺では、後継者不足で店を閉じる人がいる一方、外国人や若い店主が新たに商売を始めている。ゴミ出しや商品の管理をめぐる課題はあるが、地元にはルールを伝えながら共存していこうとする姿勢がある。
規格外の野菜を安く買え、各国の食材がそろい、小さな個人店も成り立つ余地が残る。完成された多文化共生の街ではない。それでも、異なる背景を持つ人たちが調整を重ねながら街を支えている。その現実的な柔軟さに、阪東橋の「住むとちょっといい」理由がある。

