島では木陰や遊歩道の脇などに、水の入ったトレイが置かれている。ボランティアがうさぎのために置いているものだ。環境省はトレイを「国立公園内に放置されている私物」とし、撤去するよう求めている。
取材中、ミッフィーの小物を身につけた女性に出会った。大きなタンクを抱えてトレイに水を補充している。
「草を食べているうさぎは水を飲まなくてもいいのですが、ペレットには水分がないので、水が必要になります。島内の湧水や雨水だけでは足りず、ボランティアが島の外から水を持ってきて、トレイに補充して回っているんです」
ボランティアを束ねる団体があるわけではなく、それぞれが自分のペースで活動をしているのだと、その人は言った。
「ゴミを拾う人、餌をやる人、水だけやる人など、さまざまなボランティアが全国から自主的に集まります。私は竹原市内にアパートを借りて、年に数回、島に通っています」
年間20万人が来ても、玄関口は「赤字」だった
年間20万人。これだけの観光客を集めれば、さぞ地元は潤っているだろう——そう思うのが自然だ。だが、島へ渡る人々が最も多く利用する玄関口、「忠海港 フェリーターミナル」を経営する久野島産業株式会社の代表取締役・松本陵磨さんの口から出たのは、意外な言葉だった。
「切符販売は、赤字事業でした。観光客が増えれば増えるほど、赤字が膨らんでいったんです」
観光客が増えるほど儲かるどころか、損をする。なぜ、そんなことが起きるのか。背景には、大久野島という島の特殊な事情がある。
「大久野島は国有地なので、休暇村以外での商売は禁じられています。また、忠海港周辺は広島県が管轄する港湾施設で、商売ができません。唯一、忠海港 フェリーターミナルは『民地』であるため、営業できるのです」
久野島産業の前身は、北前船が活躍した時代、地域の海運に関わっていた。時代がフェリー輸送へと移る中で、大久野島や大三島の盛港を結ぶ航路の切符販売を担うようになったそうだ。ところが前述の通り、この切符販売は赤字事業だった。さらに、2014年以降は観光客の増加で人件費がかさみ、赤字はさらに膨らむ。これをカバーするためにターミナルをリニューアルし、土産物販売に踏み切ったという。

