歩いていると、地元の人に「日本人ですか?」と声をかけられることもあった。午前中は中国人団体客であふれていたにもかかわらず、私を「日本人」だと見分けてくれる。シャウエン、親日すぎんか。
世界一周で巡った中で、そんな場所はシャウエンとトルコのカッパドキアくらいだ。コロナ禍前にはかなりの日本人が来ていたのだろう。日本人旅行者をあて込んで、日本で暮らした経験を持つモロッコ人がこの地でビジネスを始めるから、中国人観光客が優勢になっても、日本人旅行者の存在感が保たれているのかもしれない。
最大の誤算は、作業環境を重視して宿を選んだのに、日本語を話せるモロッコ人たちのたまり場と化していて、まったく仕事が進まないことだった。
しつこい求婚、その理由は
スタッフのカルロスには、顔を合わせるたびに求婚された。
「みんな日本人の奥さんがいて羨ましいよー!。あなた50歳? 俺44歳。結婚しよう」
「日本人の奥さんがいた方が、日本人のお客さんも安心してたくさん来てくれるから結婚しよう」
むかつく理由だが、一理ある。
「私、既婚者なの」と断ると、「モロッコは一夫多妻制だから問題ないよ」と返された。なんでそんな日本語知っているんだ。
「うざー」と小声で呟くと、カルロスの顔が曇った。「私、日本語分かるからね。『うざい』は悪い言葉だよ。傷ついたよ」
チェックアウトの際も、「タダにするからあと1日泊まっていきなよ」と引き留められた。「バスを予約しているから」と断ると、「じゃあ帰ってもいいけど、グーグルマップに星5つのレビューをつけると約束して」と言われた。それ、ステマだから。
グーグルマップでホテルの口コミを調べると、最近も日本人旅行者による「宿泊客でもないのに誘われてミントティーをごちそうになった」という書き込みがあった。相変わらずだ。
うざくて、クセが強くて、温かく、どこか懐かしい。
異国情緒漂う青の街に足を踏み入れたはずが、昭和のホームドラマ「時間ですよ」の銭湯にタイムスリップしたかのような4日間だった。

