「大人になってからでも書き換えは可能じゃないでしょうか。要は、自分の中に深く根ざした自然への原体験があるかどうかが重要。幼少期に限らず、偶発的に起きた出来事の衝撃の方が大きいこともある。パックツアーで触れたような自然ではなくて、友達に誘われて、いろんなトラブルがありながらたどり着いた中での喜びみたいなものから、アイデンティティの書き換えが生まれることは十分あり得ます」
徳谷さん自身にも、そんな体験がある。東京で暮らしていた29歳のある夏、ふとSNSに「薪割りをして背筋を鍛えたい」と投稿したところ、面識のないフォロワーから「長野で母と田舎暮らしをしています。薪割りできますよ」とコメントがついた。
衝動的に長野行きの高速バスに乗り、朝日村に1泊2日で滞在。慣れない薪割りを続けるうちに、力任せではうまくいかないことに気づく。ほどよく力が抜けた瞬間、「パカーン!」と薪が割れた。
「俺の知らなかった人生のBルートが目の前にバーンと開いた」と徳谷さんは振り返る。山のルーツを持ちながらも、「いつかこんな土地で暮らしてみたい」という感覚が言葉になったのは、あの1泊2日の偶発的な体験があったからだった。
「大人になっても旅の習慣があれば、新たなルートが開けると思いますね。解剖学者の養老孟司さんも都市と田舎を行き来する“現代の参勤交代”を提唱していて。二拠点生活でも関係人口でも捉えるキーワードはなんでもいいんですけど、自分の中の“こうである”を少しずつ崩していく機会が大事です。
自然の中でのキャンプも1泊じゃなくて7泊やってみる。離島のAirbnbで一週間過ごしてみる。都市的な時間軸を手放して、未知の世界にどっぷりと浸かると変化が起きるはずです。その点、オンラインMTGを詰め込みすぎたリモートワークでは書き換えは起きないでしょうね」
人口規模で暮らしの質は変わる――30万人という選択肢
山か海かに加えて、日当たり・日照率も重要な要素だと徳谷さんは話す。例えば北陸が日照率の低さに合わせた家の文化を育んできたように、気候と暮らしは深く結びついている。さらに、その土地の歴史的な背景――宿場町だったか、新幹線が通っているか、寺町か城下町か――という点も、暮らしやすさに影響を与えると徳谷さんは見る。
「長野市は善光寺があることで、寺町としてさまざまな地域から人が訪れてきた歴史がある。比較的閉鎖的といわれる地方都市の中でも、外から来訪者を受け入れる土壌は育まれているように感じます。一方、寺町ゆえに朝が早く、観光地でありながら夜はお店が閉まるのが早いという一面もあります。
同じ長野県内の松本市と比べてみると、長野市は東京とつながる北陸新幹線が通ったことで日帰りの街になってしまった側面がある。一方松本市は泊まらないと少し不便だからこそ、夜のにぎわいは松本の方が強い。どちらが合うかは、その人の性格や生活スタイルによって変わってきます」

