しかし今、その文脈はさらに一段階深くなっていると徳谷さんは感じている。
「昨今のアメリカとイランの紛争をきっかけに、インフラや流通が当たり前ではないという思いが強くなっている。そもそもどこで暮らしていくのがいいんだろうという僕自身の問いが深くなってきています。どれだけ田舎に暮らしていても、もちろん世界情勢の影響は受けるけれど、『どこで暮らしていれば自分が機嫌よく過ごせるのか』という視点が、この春ごろから一段階変わってきているなと感じていて。
食料の生産を他国に頼らず自身でもしないといけないんじゃないかと、家庭菜園からでも畑を始めてみようという動きが出てきているように思います。畑や水といったインフラ以外にも、地方には濃い人間関係から発生する助け合いの恩恵もあると思います。生存に対する危機感からの地方移住は今後さらに増えてくるんじゃないでしょうか」
さらに、AIの急速な進化も移住への関心と無縁ではないと考えている。
「情報を扱う仕事のあり方が、想像しているよりも速いスピードで変化しているので、そこに危機感を持っている人が周囲でとても増えています。僕たち編集者も含めて。僕の周りの興味深い例でいうと、京都の有名な制作会社のトップエンジニアが、エンジニアの仕事に見切りをつけて大工に転身し、家づくりをガチでやっているというケースも出てきました。あれだけプログラミング教育が大事といわれていたのに、この2、3年で大きな変化が起きている」
「自然の近くで暮らしたい」「忙しい都市部を離れてリフレッシュしたい」というふんわりした憧れから、「生き残るためにはそれしかないんじゃないか」という、より現実的な危機感へ。移住をめぐる空気は、確実に変わってきている。
山派か、海派か。まずは自分のアイデンティティを問い直す
では、移住先はどう選べばいいのか。徳谷さんが最初に問うのは、意外にもシンプルなものだ。
「まず、あなたは海派ですか? 山派ですか? と。自分が生まれ育った土地が山だったのか、海だったのか、もしくは都市だったのか。そんなアイデンティティの話がすごく重要だと思っていて。山のルーツを持っている人は、山に囲まれた風景を見ると安心感を得られるし、季節の変化を楽しめる。でも海の文化で育った人は、山の閉塞感にプレッシャーを感じて息苦しくなることがある。同じ日本で育っても、その人の育ってきた背景によって景色の受け取り方が大きく違うんですよ」
徳谷さん自身は大阪生まれだが、父方は大阪の能勢町、母方は熊本の山鹿市という、両方とも山深い土地にルーツを持つ。両親の関係が不安定だった幼少期に、山鹿市の山の中で遊んだり、田んぼの側溝でカエルやサワガニ、ミズカマキリを捕まえたりして遊んだ記憶が、いまも鮮明に残っているという。
「20代で地元である大阪を離れて上京をしましたが、気づいたら長野県信濃町という山に囲まれたところに引っ張られてきている。それは実体験としてありますね」
とはいえ、移住先選びは自分のルーツに縛られてしまうのかというと、必ずしもそうではない。徳谷さんは、後天的な書き換えは可能だと言う。

