初めてのミシュラン掲載店との縁も、偶然の出会いから生まれた。2022年春、直売所に一人の男性が立ち寄った。伊豆への家族旅行の帰りだという。男性はこれから日本料理店をオープンする予定だといい、しばらく店内で話をした。その場で柑橘を買っていき、後日、正式な注文が届く。
その男性は中村英利氏。後に東京・西麻布の日本料理店「明寂」の店主となる人だった。
「明寂」は開業からわずか7カ月でミシュランガイドに掲載され、いきなり二つ星を獲得した名店だ。「ミシュランガイド東京2026」では、唯一、二つ星から三つ星へと昇格を果たし、話題をさらった。
「異次元ですよ」と修平さん。
「明寂」からの最初の注文は、葉っぱがついたままの小夏。器として使うため、サイズも揃えてほしいとリクエストがあった。敏雄さんは一つひとつハサミを入れ、丁寧に収穫して納品したという。それ以来、今でも取引は続いている。
料理人が求める「おいしさ」の正体
舌の肥えた料理人たちが名指しで求めるほどの味は、どのように生まれるのだろう。
同じ品種を育てていても、生産者によって味は異なる。敏雄さんがこだわるのは、甘さではなく、おいしさだ。香り、甘味、旨味、酸味のバランスが、おいしい柑橘をつくるのだという。旨味の元になるのはアミノ酸。敏雄さんはアミノ酸を豊富に含む魚由来の肥料を使う。さらに、卵由来の液体肥料を葉に散布し、ミネラルやカルシウムを補っていく。ただ、この方法も最初から確信があったわけではない。試行錯誤を重ねた結果、果実の旨味が増したものだ。
肥料は決して安くなく、使えば使うほど生産コストが上がる。果実の品質にどうつながるかは、やってみるまでわからない。農家の間では「カルシウムはあまり効かない」という通説もあった。
それでも、自分の味を追求したい、付加価値をつけたい。敏雄さんにとって肥料代は、コストではなかった。
「投資ですよ」
最初は、メーカーが勧める通りに肥料を使い、費用もかなりかかった。しかし、確かに味が変わっていく実感があったそうだ。効率よく肥料を使うにはどうすればいいか。使用方法を模索するなか、散布のタイミングを見極められるようになってきた。かつては、年に何度も使っていたが、今は、品種ごとに決めた時期に効率よく使う。

