「1台の機械が止まっただけで、2000億円の損失」。半導体工場で実際に起きたニュースを示しながら、2人の若者が製造業の古くて新しい課題への備えを訴えた。彼らがつくるのは、設備が壊れる前にその予兆を捉える「異常検知デバイス」だ。
7月3日に京都で開かれた国内最大級のピッチコンテスト「IVS2026 LAUNCHPAD」。500社超の応募から選ばれた15社が6分間のプレゼンで競うこの舞台で、第5位に食い込んだのがZetaX(ゼータエックス)だ。共同代表の佐藤陽氏と柳澤京佐氏はいずれも現役の東大2年生。登壇時はともに19歳で史上最年少だった。創業からわずか5カ月での快挙である。
話題先行に見えるZetaXだが、2人がピッチで訴えたのは中身だ。いったい何をつくっているのか。
[社 名]ZetaX
[設 立]2026年2月
[資本金]10万円
[代表者名]佐藤 陽、柳澤京佐
[所在地]東京都渋谷区
「職人の勘」を継ぐ軽量AIの中身
製造現場では長年、熟練の職人がドライバーを機械に当て、音で故障の予兆を察してきた。だが職人の高齢化が進み、昭和期の設備の老朽化も止まらない。勘と経験に頼る保全は限界に近づく。
ZetaXがつくるのは、センサーそのものではなく、機械から出る熱などのデータをAIで解析する「エッジAI」だ。電流や熱を検知するセンサーにAIをつなぎ、機械の状態を現場で判定する。
核となる技術は、時系列データ分析に特化した軽量AI「リザバーコンピューティング」だ。際立つのは消費電力とメインメモリ容量の小ささだ。同社によれば、消費電力はサーバーの約1000分の1(汎用PCと比べても約20〜50分の1)、使うメモリも汎用PCの8ギガバイトに対し、こちらも1000分の1のわずか8メガバイトで済むという。こうした軽さゆえ、高価なGPU(画像処理半導体)を使わず数千円規模の汎用半導体チップで動かせ、導入コストは従来比で約10分の1に抑えられる。
特徴的なのは分析対象を電流・熱のデータに絞った点だ。実証の中で外乱(外部からの影響)に弱い振動・音のセンサーは外し、精度を高めた。「今のAIに必要ではない要素をすべて削ぎ落として、電流・熱のデータのみに特化させた」(柳澤氏)という。汎用AIが「あらゆるデータを大量に学習する」方向へ進む一方、ZetaXは分析対象を大胆に絞り込み、現場で動くことを優先した形だ。
ZetaXの異常検知デバイスは、設置後にわずか60秒の正常時データを取り込むだけで初期学習が完了し、監視を始められる。この手軽さが大きな特長だ。柳澤氏によれば、大手の予兆保全AIは学習に「1〜2カ月」、数百〜数千時間分の正常データが必要で、その収集や構築にコストがかさむ。「(大手の方式では)60秒のデータで精度は絶対に取れない」(柳澤氏)。
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