エグゼクティブ・プロデューサーであり脚本を担当したのは、映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』やNetflixシリーズ『地獄が呼んでいる』『寄生獣 -ザ・グレイ-』などを手掛けたヨン・サンホとリュ・ヨンジェ、監督は『岬の兄弟』『ガンニバル』『さがす』などで注目されている片山慎三で、とても挑戦的な作品になっている。サザンオールスターズの大ヒット曲『いとしのエリー』が印象的に使用され、耳に残って離れない。
蒼井が演じるのはジャーナリストの甲野京子。彼女はテレビの生放送中、取材相手の教授(演じたのは、今年亡くなったモーリー・ロバートソン)の衝撃的な死を目の当たりにする。犯人は謎のガス人間(UTA)で、その後も次々と殺害が繰り返される。
京子はその事件とガス人間の謎を追いかけるが、彼女は単なる正義のジャーナリストではなかった。昔、つきあっていた刑事・岡本賢治(小栗旬)と苦い別れ方をしたことをはじめとして、京子は自分の求めるものに対して倫理観を度外視した行動をとる。
『ガス人間』でも、視聴者の共感や感動をやんわりと回避
ここでもまた『Tシャツが乾くまで』と同じく、蒼井は視聴者の共感や感動をやんわりと回避するような役を演じているのだ。京子も一見、自立した、それも優秀な社会人だ。その反面、ニュース番組の放送時間ぎりぎりでテレビ局に飛び込んで口紅をさっと引いただけでカメラの前に立つ野性的な人物でもある。
昔で言えば男勝りな女性。だが蒼井はガサツすぎず、かつエリートすぎもしない、程よさで京子を演じている。そして、共感や感動のみならず、容易にカテゴライズできない雰囲気を醸している。透明感、善人、悪人、グレーと名をつけられない俳優だ。だからこそテレビドラマよりも映画や舞台が主戦場になってきたのではないだろうか。

