規範を演じるのが苦しく、そこを降りたはずの安達さんだが、礼儀や型を重んじる弓道界とは、縁を切っていない。それどころか教える側に立っている。
「弓道は礼儀や型、伝統を重んじる世界です。外側の型を正しく修めようとするからこそ、鍛錬を積むほど、今の自分の気持ちと距離を感じてしまうこともあります。それでも、そのように内面を掘り下げることこそが鍛錬ですし、教えてくれた先生方への恩義があるので、自分なりの距離感でこれからも弓道と付き合っていきたいと思っています 」
少し困ったように、安達さんは言った。
「辛いのは辛い」でいい——生きづらさを、支点に変える
宇宙、弓道、古建具——一見バラバラな要素を束ねるものを尋ねると、答えは意外なものだった。
「私の根底には生きづらさがあって。でも、その生きづらさがないと、こういう家にしようとも思わなかったし、美意識は育たなかった。生きづらさをそのままに、それを支点にして生きられるんじゃないかと。
幸せであることには、こだわりを持たなくなりました。『辛いものは辛い』でいい。それがエネルギーになって、何か美しいものを、この人生から生み出せるなら、いいやって」
そんな安達さんに、これからの人生のミッションを聞いた。
「『こんなふうに生きられるよ』というサンプルになることですかね。いわゆるモラルで便利に片付けられてしまうものが、本当に周りの人々の幸せとつながっているのかな——っていう疑問があるんです」
帰り際、もう一度部屋を見渡した。損得で測り、規範に合わせ、一度心を壊した人が、二度と沈まないためにつくりあげた空間。そこは住まいであると同時に、彼自身の探求を映し出す作品のようにも見えた。
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