シャープはAQUOSスマートフォンを選んでもらうための打ち手として、「AQUOS wish5s」プロモーションに読売巨人軍公式マスコットガール「VENUS」のメンバーである松崎さや氏を起用し、現地の消費者に親しみを持ってもらう狙いだ。また、手のひらサイズの対話型AIロボット「ポケとも」も26年7月から台湾で販売を開始している。中国語対応のAIデバイスを投入することでシャープの先進性をアピールするとともに、AQUOSにとどまらずシャープというブランドそのものへの好感や関心を高めようとしている。
次の10年に向けた海外展開の意味
日本メーカーによるスマートフォンの海外展開は、長く試練の連続だった。パナソニック、NEC、京セラなど多くのプレーヤーが撤退してきた経緯を振り返れば、シャープの再挑戦も決して平坦ではない。今後、販売が伸び悩めば、LGエレクトロニクスのようにスマートフォン事業から身を引く判断も現実的な選択肢となりうる。それでもなお、スマートフォン事業を手放すことが本当に得策なのかどうかは、改めて問い直すべきテーマだ。
スマートフォンを取り巻く環境は、もはや数年先どころか1年後さえ読みづらい。ここ1~2年で加速したスマートフォンAIの普及はその典型例だ。スマートフォンは「アプリを動かす端末」から「日常を支えるアシスタント」へと役割を大きく変えつつあり、個人の生活における位置づけはさらに重くなっていく。そこに、AIデバイスやスマートグラスなど新しいウェアラブル機器が加われば、その母艦となるスマートフォンの重要性はむしろ増していく。
AIデバイスをどれだけ磨いても、その中核となるスマートフォンが他社製であれば、連携の設計を思いどおりに行えるとは限らない。一方で、自社のスマートフォンを持ち続ければ、その上で最大限の能力を引き出せるAIデバイスや周辺機器を自由度高く設計できる。シャープが「AQUOS R11」の国内発表に合わせてスマートウォッチとスマートリングを投入したのは、その好例だ。根幹となるスマートフォンを自前で押さえているからこそ、周辺領域へと踏み込む余地が広がっていく。
機能面だけを見れば、AQUOSはいまも厳しい競争にさらされている。それでも、プロダクトデザイナー三宅一成氏率いる「miyake design」が本体デザインを監修していることにより、他社とは異なるたたずまいや質感を獲得している点は見逃せない。性能の差がわかりにくくなった時代において、外観デザインはむしろ重要な差別化要素になりつつある。例えばファーウェイが26年に海外で発表したカメラ特化スマートフォン「Pura 90s」シリーズも、グラデーション仕上げのボディーデザインが大きな話題を呼んだ。
加えて、「日本メーカー製」であることへの信頼は、依然として根強い。シャープは台湾でテレビや家電も展開しており、今後はそれらとスマートフォンを組み合わせた提案にも期待がかかる。とりわけ白物家電とウェアラブルデバイスを連携させれば、ヘルスケアなど新たな領域も見えてくるだろう。日本市場では試しにくい施策を台湾で先行実験し、その結果を日本へ還流させるという発想もありうる。
シャープにとって、台湾でのスマートフォン展開は単に「海外で端末を売る」という話にとどまらない。AIデバイスやウェアラブル、家電との連携まで含めて、次の10年を見据えたプロダクト戦略を試すための実験場になりうる。AQUOSが台湾でどう育っていくかは、日本のスマートフォンがこれからも世界と接点を持ち続けられるのかを占う、一つの試金石なのである。

