「いましか見られない旦過を楽しんでもらいたいですね。やってる本人たちは必死ですけどね。生活もかかってますし。それでもつなげるということは、そういうことだろうと思うんで」
旦過市場の好きなところは?
最後に旦過市場の好きなところを中尾さんに聞くと、意外な反応が返ってきた。
「嫌いなところはいっぱい出てくるけどな。ごめんなさいね、私、正直なんで」
困ったように笑うと、店に立つ妻のまりこさんに声をかけた。「俺、旦過市場の好きなところを話したことあるかな?」。まりこさんからも言葉は出てこない。
それでも続けている理由を尋ねるとこう返ってきた。
「旦過市場は、みんなに愛されてるんですよ。それはもう、火事の時に感じました。だから守っていかなければならない」
中尾さんは、続けた。
「この時代に、生鮮品を中心とした個人商店の集まりが、地方都市で残っていること自体が奇跡なのは分かってたんですよ。でも、生き残っている理由は分からなかった。火事の時に、自分の大切なお金を寄付してくれる人がいっぱいいた。北九州の名だたる企業も助けてくれた。なくてはならない市場なんだから、頑張って続けてくれよというエールなので。愛されてないと、そこまでしてくれないと思うんですよね」
旦過は、必要とされ、生き残った。
「めちゃめちゃ幸せなことだと思うので」と中尾さんは言葉を継いだ。
「だから好きなところで言えば、皆さんが好きでいてくれる旦過市場が好きだということでしょうね」
次の100年へつなぐ。中尾さんの言葉を借りれば、「自分たちが見ることのない、明るい未来」だ。
みんなに愛されている旦過市場を残すために、黒瀬さんは今日も市場を語り、中尾さんは組合を束ねる。
16時半ころ、取材を終えると、中尾さんとまりこさんは、店じまいの支度を始めた。このあと、ふたりで整体に行くのだという。この空気も、旦過市場を作っている。また、帰ってきたくなる場所だった。

