Gensparkが掲げるスローガンは「AI for the rest of us.(残り大多数の人々のためのAI)」。1984年、マウスでメニューを選ぶだけでパソコンを操作できるようにしたMac発表当初の、アップルのキャッチフレーズ「Computer for the rest of us.(残り大多数の人々のコンピューター)」を、AI時代向けにアップデートしたものだ。
日韓で火がついたAI for the rest of us.
このGensparkの人気に、最初に火をつけたのは日本と韓国だったという。
2024年末時点のユーザーは、なんと半分以上が日本と韓国に偏っていた。同社は契約者のメールアドレスを見ていて、その異常事態に気がついた。ドメインを見ると、日本企業ばかりが並んでいたのだ。
IT業界史を振り返れば、まず日本でブレイクし、その後に世界で成功するサービスは少なくない。あらゆるものを記録する「Evernote(エバーノート)」もそうだったし、「Twitter(ツイッター。現X)」も、ビジネス用のメッセージングソフト「Slack(スラック)」も、早くから日本で人気を確立している。
Genspark社は、日韓での大成功の理由を、両国に根深く残る文書文化だと見ている。社内の稟議も、社外との調整も、要点をびっしり詰めた資料に落とし込んで進める慣習が、他国より強い。調べて、まとめて、体裁を整えて、通す——この一連の作業が重視されるからこそ、そのまま成果物として使える書類を作れるGensparkの受け皿になった、というのだ。
同社日本法人でGo-to-Market(市場開拓)を率いる中村圭佑氏は、初期のユーザーの多くがGensparkを、AIである以前に「資料作成ツール」、あるいは「仕事を終わらせる道具」として認識していたと分析する。
ここで面白い統計を紹介したい。総務省「令和7年版情報通信白書」(2024年度調査)によれば、業務で生成AIを利用している企業の割合は、中国95.8%、アメリカ90.6%、ドイツ90.3%。主要国が軒並み9割を超えるなか、日本は55.2%と半数強にとどまる。白書は生成AI導入に際しての懸念事項も尋ねているが、日本で最も多かったのは、米中と比べて際立って多い30.1%の企業が挙げた「効果的な活用方法がわからない」だった。
AIとして認識される以前に、単なる「資料作成ツール」として認識される「AI for the rest of us.」。Gensparkが日本で強いのは、まさにこの部分だろう。
COOのサンは「私たちは次世代のAIソフトウェアを作るのではなく、AIソフトウェアを使う“次世代のユーザー”を作っている」と語る。少なくとも日本では、その通りになっている。
同社は2026年1月に日本法人を設立し、東京にオフィスを構えた。営業やマーケティングだけでなく、サポートや開発の一部まで日本に置く。地上波のテレビCMを流し、電車やタクシー、新聞にも広告を出した——AIスタートアップの日本法人としては珍しい振る舞いだ。今後3年間で、重要市場である日本と韓国に対し、1億ドル以上を投資していくという。

