たとえば、金融業界のなかでも、定型的なレポート作成はAIの影響を受けやすい一方で、顧客との信頼関係をもとにした資産運用の提案など、人間が責任を持つ業務は「空白」として残ります。
IT業界でも、コードの一部は自動生成できるようになってきましたが、システム全体の設計や最終的な責任の所在を決める業務は、人間が担います。
AIによる「代替」「補完」に今から備える
そして、さらに興味深いのは、AI影響度の大きな業務は、さらに2つのパターンに分けることができるということです。
1つ目は「人間の業務・作業そのものを代替する」というパターンです。たとえば、議事録の作成を完全にAIが行い、人がその業務を担当しなくなるケースです。
もう1つは「人間が行う業務・作業を補う(サポートする)」というパターンです。たとえば、医師が診断を下す前にAIが画像を分析して参考情報を提示するケースや、営業担当者がAIに提案資料の下書きを作らせ、そのうえで自分の判断を加えるケースです。
前者は「代替」と呼ばれ、後者は「補完」と呼ばれます。もちろん、あらゆる業務は担当する人間に責任があるため、完全な「代替」ということは原理上あり得ませんが、その度合いがどの程度なのかを知ることは非常に重要です。
たとえば、経理担当者が仕訳入力に多くの時間を使っていたとします。その業務が自動化されれば、空いた時間を使って、より精度の高い資金計画を立てたり、経営陣に改善提案を行ったりすることができます。代替できる割合が多いほど、業務時間を短縮できます。その一方で、補完の割合が強いものは、それによってより質を高められる可能性を持ちます。
先ほどの表で示した業界ごとのAI影響度は、業界がなくなる/なくならないを示すものではなく、AIによる「変化が起こりやすい」かどうかを示すサインです。その変化が「代替」に向かうのか、それとも「補完」に向かうのかを分析することが重要です。
そして、「代替」の可能性が高い場合は、これまで10人で行っていた仕事を1人に、場合によっては0人で行うこともあり得ます。企業レベルでこれが起こると、配置転換などの大規模な人事が断行されることは想像に難くありません。そのとき、自分自身はどう振る舞うべきか──その問いに、今から備えておく必要があります。
[2] Joseph Briggs, et al. 「The Potentially Large Effects of Artificial Intelligence on Economic Growth」 Goldman Sachs Global Investment Research (2023)
[3] Edward W. Felten, et al. 「Occupational, Industry, and Geographic Exposure to Artificial Intelligence: A Novel Dataset and Its Potential Uses」 Strategic Management Journal (2021)
[4] Pawel Gmyrek, et al. 「Generative AI and Jobs: A Global Analysis of Potential Effects on Job Quantity and Quality」 International Labour Office (ILO) (2023)
[5] Edward W. Felten, et al. 「A Method to Link Advances in Artificial Intelligence to Occupational Abilities」 AEA Papers and Proceedings (2018)
[6] Erik Brynjolfsson, et al. 「Generative AI at Work」 NBER Working Paper (2023)
[7] Michael Webb 「The Impact of Artificial Intelligence on the Labor Market」 Stanford University / SSRN (2019)


