肝心のデバイスは、まだ姿を見せていない。OpenAIのサム・アルトマンCEOは25年11月に「最初のプロトタイプが完成した」と明かし、同社のChris Lehane最高グローバル渉外責任者は1月、アメリカ・アクシオスのイベントで「26年後半の発表に向けて順調だ」と述べた。アメリカメディアのジ・インフォメーションの2月の報道によると、第1弾はカメラ付きスマートスピーカーになる見通しだ。価格は200〜300ドルで、発売は早くて27年2月という。その後の製品としては、スマートランプやAIグラスを検討している。
OpenAIの企業価値は23年の約290億ドルから跳ね上がり、26年3月末に完了した資金調達では8520億ドルに達した。株式公開の準備も進む。投資家に次の成長を示す柱として、ハードウェアへの期待は大きい。ゼロから消費者向けデバイス事業を築く難しさに直面し、近道として営業秘密の流用に走った、というのがアップルの主張の骨子だ。
両社は本来、提携相手だった。24年6月、アップルはAI機能「Apple Intelligence」にChatGPTを統合すると発表し、SiriがChatGPTに問い合わせる連携を実現した。だが26年1月、アップルはSiri刷新の基盤モデルにグーグルのGeminiを採用すると共同声明で発表し、OpenAIは中核の座を逃した。契約は年10億ドル規模との報道がある。5月には、ChatGPT統合の扱いが不十分だとしてOpenAI側がアップル提訴を検討しているとアメリカメディアが報じ、水面下の緊張が伝えられていた。
アップルは慎重に切り分けもしている。訴状は脚注で、ChatGPT統合の契約と今回の請求は無関係だと明記した。提携は維持しつつ、争いをハードウェア領域に限定する構えだ。アップル自身、2月に懸念を書面でOpenAIに伝えたが回答がなかったため提訴に至った、と経緯を説明している。
先例はWaymo対Uber、焦点は差し止め審理
参考になる先例はある。自動運転技術をめぐり、グーグル系のWaymoがUberを訴えた17年の訴訟だ。元エンジニアが退職前に1万4000件のファイルをダウンロードしていたことが争点になり、提訴から約1年後、Uberは公判の途中で約2億4500万ドル相当の自社株式を渡し、Waymoの機密情報を製品に使わないと誓約して和解した。ファイル持ち出しの記録が物証として残る事件だった点は、社給端末に残された記録を証拠の柱に据える今回のアップルの主張と重なる。
今後の最初の攻防は、数年がかりの本裁判ではなく、予備的差し止めの審理になる。アップルは訴状で、差し止めを速やかに申し立てる方針を明記した。審理でアップルの主張がある程度認められれば、OpenAIは開発の停止や設計・調達のやり直しを迫られ、年内発表の予告は宙に浮く。退けられれば、デバイスは予定どおり年内に姿を見せる。いずれにせよ、この製品が最初に立つ舞台は発表イベントではなく法廷になった。

