この事件は単なる傷害事件ではなく、台湾における言論の自由を脅かす政治的背景を伴う事件として、台湾当局も重大な関心を寄せている。
対中政策を担う大陸委員会は、容疑者が香港特別行政区旅券の所持者(中国広東省出身)であることを明らかにした上で、この事件について、台湾で「反浸透法」などの関連法制が整備されて以降、初めての「越境弾圧事件」との認識を示した。
襲撃された矢板明夫氏とは?
蕭美琴副総統は事件について、「台湾への警鐘であり、私たちは決して暴力を容認しない」と強く非難する談話を発表した。また、事実上の駐台大使に当たる片山和之・日本台湾交流協会台北事務所代表も、SNSなどを通じて本件に対する高い関心と強い懸念を表明している。
矢板氏自身も7月7日に自身のSNSで無事を報告した際、「今回の事件は単なる傷害事件ではなく、政治的な圧力を意図した組織的犯行の疑いがある」と指摘し、台湾の関係当局に対して徹底した捜査を求めた。
言論活動を行うジャーナリストを標的に、海外から実行犯を送り込み、犯行直後に出国させるという「越境弾圧」の手法は、民主主義社会に対する重大な挑戦といえる。背後関係の解明に向けた台湾警察・検察の捜査の行方が、今後も注目される。
矢板氏は、台湾では「中国・共産党の内情に精通し、台湾の自由と民主主義を強く支持するジャーナリスト・時事評論家」として広く知られている。産経新聞台北支局長を退任した後も台湾に拠点を置き、現在も精力的に言論活動を続けている。
また、台湾の政財界や外交関係者から厚い信頼を得ている。矢板氏が理事長を務める「インド太平洋戦略シンクタンク」の発足式には、頼清徳総統(祝辞代読)や蕭美琴副総統、郭智輝経済部長(経済産業相に相当)ら台湾政府の要人に加え、事実上のアメリカ大使館に当たるアメリカ在台協会(AIT)の代表、日本台湾交流協会台北事務所の片山和之代表らも出席・祝意を寄せるなど、高い政治的・社会的信用をうかがわせた。
矢板氏は中国・天津市で生まれ育った経歴から中国語に極めて堪能で、台湾の主要テレビ番組や各種メディア、自身のSNS、著書などを通じて、台湾の人々に直接メッセージを発信している。複雑な国際情勢や中国の対外戦略、安全保障上の課題について、現地の視点を踏まえながら分かりやすく解説するオピニオンリーダーとして、多くの支持を集めている。

