その無償提供というのは、開業後も使用できる電気・軌道総合検測車として山形新幹線E3系を改造した7両編成1本、E10系の設計に活かすデータ取得や乗務員訓練を目的に東北新幹線E5系10両編成1本、その2本を2026年に日本からインドへ無償提供するという提案であった。それらがMAHSRを走行するにはDS-ATCの敷設が必須で、インド側にDS-ATC併設(時間帯によりETCS-L2から切り替える)を求めたり、部分開業式典でB28と並べたり、日本側の窮余の一策だった。E3系は廃車になった1編成を改造へ向け整備、E5系はおそらく量産先行車1編成を対象にしたと思われるが、実現しなかった。
今回、高市首相とモディ首相の共同声明は「E10の導入という目標を確認した」という表現にとどまり、車両形式は出てくるものの信号システムとの整合性については何も触れていない。日本側関係者が欧州式信号システムで新幹線を走らせてよいと判断すれば別だがそれは考えがたく、インドの新幹線は幻に終わることがほぼ決定したと考えていいだろう。日本政府の中にもいろいろ温度差があると思うが、ETCS-L2の入札が公示された2025年1月の時点でそれを止める適切な行動を取っていれば、こんな結末には至らなかったはずで、日本政府のオウンゴールで敗退に至ったと評しても過言ではない。
高市首相にはモディ首相への直談判を期待していたが…
日本政府はMAHSRに対する円借款を打ち切るというカードだって持っているわけで、今回インドで高市首相が首尾よくちゃぶ台返しをやることに期待していたが、そうはならなかった。高市首相にはモディ首相に対して「あなたは、私と共通の親友である安倍晋三元首相との約束を破るのか!」と迫り、日本式信号システムDS-ATCの復活を約束させてほしかった。
インドのGDP国内総生産は今年日本を抜いて世界第4位になるそうで、その高速鉄道はMAHSRだけでなく今後の延びしろがまだまだある。それだけに、わが祖国日本の新幹線がインド高速鉄道の標準システムにならなかったのは残念至極である。

