2019年以降はこれに加え、「老後に2000万円」という騒動もあった。金融庁のワーキング・グループのとあるレポートに端を発したものだ。
レポートそのものは、計画的な老後資産形成をどう支援するべきか(NISAの充実はその成果のひとつ)、リタイア後の資産管理はどうあるべきかなど意欲的なレポートであったが、その中に記載があった「公的年金だけでは月約5万円不足する」という部分だけがメディアに取り上げられ、さらに年金不安論、政権批判などが絡んで、誤解の多い騒動に発展した。
それでも、この騒動によって「長い老後=お金を備えておく必要がある」という認識がコンセンサスとなったように思う。ただし、長い老後にいったいいくら備えれば足りるのか、闇雲に不安を大きくしている人も少なくない。
拙著『リタイア・シフト』は「ライフ・シフト」の時代に、「私たちはいつ、引退するのか」という問いへの最適解を検討しようとするものだ。
今、「リタイア・シフト」の最前線となっているのはこの日本である。なぜなら、世界トップクラスの平均寿命と健康寿命を持つ人たちが、引退年齢を迎えつつある、世界をリードする「リタイア先進国」だからだ。
一律な定年年齢は崩壊が進んでいる
書籍『LIFE SHIFT』においては、長寿化はこれまでよりさらに長く働く時代を意味するとおおむね説明されてきた。これは正しいと思う。
人生70年の時代に22歳まで学び、60歳まで働き、老後を10年送ったとする。すると人生全体の54%が働く期間で、14%が老後である。
これが現在の、男女合わせた平均寿命84歳の時代だと、22歳まで学び、これまでと同じく人生の54%を働くとしたら勤続期間は46年。すると68歳だから、65歳リタイアの現状に近い。
65歳雇用は「以前より長く働かされている」のではなく、「寿命の延びに応じた勤続期間の延び」でしかないのだ(むしろ65歳リタイアは数年ほど短いともいえる)。
じゃあ老後が短くなったかというとそんなことはない。65歳から84歳まで、残されている老後は19年。人生70年時代の老後からほぼ2倍となっている。
働く期間も延びたが、それ以上に老後も延びているわけである。
これがもし、人生90年に延びたとしよう。学生として学ぶ期間は大きく変わらない(22年のまま)として、人生の54%が働く期間だとしたら、勤続49年になり71歳でリタイアすることになる。
それでも老後は19年もあり、老後の期間が減ることはない。人生の時間の21%を自由に過ごすことができる。


