今年3月にレベニューキャップ制度を所管する電気・ガス取引監視等委員会が公表した資料によると、物価や人件費の上昇に応じて事業報酬の上限を見直す制度が26、27年度を対象に導入される見通しとなった。これによって技能者の処遇改善が期待されるが、「問題は、技能者のスキルや能力に応じた賃金が支払われない労働契約慣行にある」と、中部電気工業の谷氏は指摘する。
建設費の見積もりでは、工事量に対して必要となる技能労働者の人数と作業日数をかけて労務費を算定している。5人で10日かかる工事の労務費は「労務単価」に5×10=50人日をかけて計算し、働いた日数で賃金が支払われる仕組みが業界標準となってきた。
もし労働生産性の高い技能労働者を5人集めて7日で工事を終わらせても5×7=35人日となり、労務費は3割減ってしまうことになる。つまり現在の仕組みでは「技能者に労働生産性を向上するインセンティブが働かない」(谷氏)という問題が生じる。他の工種も含めて技能者の能力に見合った賃金が支払われる仕組みが整っていないのだ。
日本でも2020年代に入って労働生産性の向上を推進しようと、欧米で普及している「ジョブ型」雇用を採用する企業が現れたが、なかなか導入が進んでいないのが現状だ。その原因は労働者のスキルや技能を客観的に評価する仕組みが整っていないためではないかと筆者は考えている。
「ジョブ型」雇用を採用する企業が、現状では日立製作所、富士通、NTTグループなど情報通信企業に多いのは、日本でも2002年に経済産業省がIT技術者のスキルを評価するための「ITスキル標準」を策定して普及を図ってきた歴史があるからだろう。スキル標準では、技術者に求められる役割やスキルをレベルごとに定めており、企業では技術者のスキルや能力を客観的に評価する基盤として活用されている。
技能者の就労履歴を正確に把握する仕組み
建設技能者はもともと典型的な「ジョブ型」労働者である。IT技術者と同様にスキルや能力によって労働生産性に違いが出るので、本来ならスキルや能力によって賃金が決められるべきだろう。建設業ではさまざまな技術資格制度が整備されてきたが、異なる元請け事業者の工事現場を渡り歩いて働く技能者のスキルや能力を客観的に判断する仕組みがなかった。
国土交通省では、建設技能者の就労状況を記録できる仕組みとして「建設キャリアアップシステム(CCUS)」を構築し、2019年4月から本格運用を開始している。CCUSの登録は国直轄の公共工事では義務化されており、約296万人の技能労働者のうち26年4月末時点で183万人が登録。このデータを使えば、技能者の就労履歴を正確に把握できる。

