建設技能者は、工種ごとに必要な技能を習得する必要があり、国や団体などの資格を取得しなければ作業できない工種もある。人手不足も工種によって状況が異なっており、設備工事関係の技能者不足が深刻だ。なかでも、今後の再生可能エネルギーやデータセンターの整備で需要が見込まれる架空送電線工事のスペシャリストである高所作業員の不足が問題となっている。
送電線工事の高所作業員、5600人の「限界」
日本の送電線ストックは、総延長が約8万㎞、鉄塔の数は約24万基だ。そのインフラを整備・維持管理する高所作業員は一般社団法人送電線建設技術研究会によると、作業責任者を含めて2024年度で約5600人。グラフを見る限り、20年間ほどは横ばいで推移している。一方、送電線工事受注額は、この20年間はほぼ右肩上がりで増えている。投資額が増えているにも関わらず、人材を十分に確保できていないことがわかる。


岐阜県に拠点を置く架空送電線工事の元請工事会社、中部電気工業の谷真孝取締役(前社長)は「実態は統計数字よりも人手不足が進んでおり、すでに4000人を切っている可能性もある」と、現場の内情を語る。「若手の採用で人数は確保できていても、技術力の高いベテランがリタイアすると施工能力は低下してしまい、それをカバーするのは容易ではない」という。
電力事業は、2016年4月から「小売の全面自由化」が実施され、発電事業は届出制、小売事業は登録制で参入が可能になったが、送配電事業は公的インフラとして国の許可制となり、一般送配電事業者に対して託送料金の規制が課された。政府は、送配電事業者が事業計画に必要な費用総額を5年ごとに算定して託送料金の単価を設定できる「レベニューキャップ制度」を2023年度から導入した。5年間の収入上限を設定することで電気料金の安定化を図る一方、事業者は計画的に設備投資などを行いやすくなり、投資効率が上がれば収益アップとなるインセンティブが働く。
同制度が検討されていた2021年当時は、インフレによる工事費の上昇は始まっておらず、作業員も何とか確保できている状況だった。そのため人件費や物価上昇による制度見直しの仕組みが設定されず、送配電事業者は過去の実績に基づいて工事業者に5年分の工事量を割り当てた。工事業者にとって5年先の工事発注が見通せれば人材や設備への投資を実施しやすくなるメリットはある。
しかし、必要な施工能力を確保できなければ工事を消化できずに収益は得られない。送電インフラの老朽化が進む一方で、人材確保は難しくなるなかで、5年の事業計画で予定していた工事量の3割以上の積み残しが出るとの懸念が出ている。

