インドはトリウムを原子力の燃料として備蓄している。インドのモナザイトはトリウムの含有率が高く、処理すればトリウムは湧くように発生してくる。もう一度、1ページ目の上下の図を見比べてほしい。1990年代にトリウムの蓄積量は5万トンを超えた。その後のトリウム蓄積量の増加率は減少している。
レアアースの生産量を増やすとトリウムの発生量も増える。トリウムの必要量を超える備蓄量がすでにあり、かつ自身のレアアースの需要量が大きくなければ、レアアースの生産量を増やすモチベーションとはならない。つまりインドではトリウムが主産物でレアアースが副産物なのだ。
では、インドのようにトリウム原子力を進めるためにトリウム資源を開発しよう。そうすればレアアースが得られるではないか、と思うかもしれない。レアアースとトリウムの一体性を鑑みればその考えが浮かぶことは理解できる。しかしトリウムを主産物としてレアアースを副産物として生産すると、レアアースの需要を超えてトリウムが生産される可能性がある。
トリウムを国家が備蓄することの意味
すると需給バランスが崩れてレアアースの価格が低下する。消費者から見れば低価格化はありがたいが、サプライヤーにとっては死活問題となり事業の継続が難しくなる。そのため、主産物はレアアースとし、副産物のトリウムをサプライヤー以外が責任を持つ、つまり国家が備蓄するという政策を取ることが問題の唯一の解決策となる。
100万キロワットの原子力発電所で年間に必要なトリウムの量は100トン程度だ。仮にインドの原発がすべてトリウムを装荷したとしても、年間で1000トンしか必要としない。50年動かして5万トンだ。インドはすでにこの必要量を超える備蓄量がある。
2026年5月に茂木敏充外相がQUAD(クアッド、日米豪印4カ国戦略対話)外相会合に出席し、4カ国でエネルギー安全保障や重要鉱物供給などで合意したという。日本としてはアメリカやオーストラリアからのレアアース供給に加えて、インドもレアアースのさらなる供給源として期待をしているのだろうが、上述した理由でインドからのレアアースの供給が潤沢に増えることはない。
むしろ、筆者が日本が主体的に取り組むべきと提言する「トリウム国家備蓄」についてトリウム先進国インドの知見を求めたのであれば先見の明があるといえるが、そういう話は残念ながら聞こえてこない。
インドは3段階の原子力開発プログラムを自国の輸出産業として育成しようとしているわけではない。世界のエネルギー支配を試みてはいないからだ。

