美川駅では、駅舎だけでなく隣接する駐輪場や周辺の公園、さらには近隣駅の清掃まで幅広く担う。また駅舎2階では、北欧のヴィンテージ家具が置かれた「美川37(みんな)Café」を運営している。
注目すべきは、そのメニュー構成だ。ふぐの卵巣を糠漬けにした「ふぐの子」を用いたお茶漬けやペペロンチーノ、サバを米糠と塩に漬けて熟成させた「こんかサバ」をのせたうどんやラーメンなど、美川の伝統的な加工品が使われている。地元で評判の、スミヤ精肉店のチャーシューも食べられる。
「美川にはおいしい加工食品があるのですが、それを食べられる店がなかったのです。美川37Caféが、地域のアンテナショップのような役割も持てればいいと考えています」
カフェのスペースは広く、ギャラリーやイベントスペースとしても利用されている。毎月開かれるジャズライブは、既に100回を超えている。
佛子園の店舗展開は、2013年には松任(まっとう)駅近くの「松任23(ふるさと)Café」、2023年には小松駅の「小松KABULET(カブーレ)」と、駅を起点に拡大してきた。各店は、店名や設えも違えば、メニューもそれぞれ。徹底して、その地域の文脈を汲み取って店づくりをしているのだ。
居場所づくりや丹念な清掃が、駅の治安にもつながる
美川駅での活動は、地域の治安維持という思わぬ副産物も生んだ。かつての美川駅は不良の溜まり場になっていて、警察が朝昼晩巡回しなければならないほど治安が悪化していた。
「でも、障がいのある人たちが毎日掃除を続けて駅がどんどんきれいになってくると、居心地が悪くなったのでしょう。だんだん集まってこなくなったのです」
と岸本さんは振り返る。ニューヨークの「割れ窓理論」の逆を行く現象だ。警察の巡回は、必要なくなったという。
この清掃の現場を支えているのは、現在87歳の男性。佛子園が入る以前から駅の清掃を担当し、スタッフに掃除の仕方や挨拶などを教えているのだ。「彼にどれだけの人が育てられたかわからない」と、岸本さんは感謝している。
「佛子園に定年制度はありません。障がいがあるとか、高齢だとかで線を引くのではなく、誰もができることを生かして働いているのです」

