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「何もかもが空っぽで虚無の日々だった」——9歳年下の妻に先立たれた54歳男性の「ひとり暮らし」、少しずつ前へ

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テリー植田さん
亡き妻と過ごした家でひとり暮らしをしているテリー植田さんを取材しました(撮影:今井康一)
  • 蜂谷 智子 ライター・編集者 編集プロダクションAsuamu主宰
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植田さんは美智子さんの卵巣がんに対して、「もし、早期発見できていたら」という後悔が拭えないという。そんな悔恨の気持ちもあったのだろう。彼女の死後、植田さんはうつ状態になった。

「妻は地元の人たちに愛されていて、葬儀には多くの人が来てくれました。亡くなってからも、地元を歩けば美智子と仲が良かった人たちが、残された僕のことを心配して、声をかけてくれてね。

でも、そのことが逆につらくなってしまったんです。外を歩けず、家のなかで寝てばかり。本当に心も何もかもが空っぽで、虚無の日々だったんです」

夫婦で飲み歩いた久米川の街には、美智子さんとの思い出があまりにも多かった。そのことが、かえって彼女のいない現実を突きつけた。

「うつ病の薬も飲んでみたけど、全然性に合わなくてね。薬はいち度飲みだしたら、飲み続けなければならない。そこに頼っていたら、ずっと元には戻れない気がしたんです」

植田さんは後になって知ることになる。

配偶者との死別は、人生で経験するストレスのなかでも最も大きな出来事のひとつとされていることを。特に男性は妻を亡くしたあと、うつ病や自殺のリスクが高まることが国内外の研究で指摘されている。

「妻を亡くした夫の自殺率って、すごく高いらしいんですよ。『ああ、わかるな』と思いました。やっぱり精神的に持っていかれるというか、空洞状態になるんですよね。僕も本当に真っ白になりましたから。今だから言えますけど、『これ、自殺する人がいるのもわかるな』という感覚はありました」

イベントプロデューサーとして人と交流し、現場を飛び回っていたかつての植田さんは見る影もないほど、気持ちはうち沈んでいた。

猫のためのアイテムは清潔に整えられていた(撮影:今井康一)

「悲嘆」はなぜ人と社会とのつながりを奪うのか

大切な人やものを失ったときに生じる深い悲しみは「悲嘆(グリーフ)」と呼ばれる。近年は世界中で研究が進み、脳や身体にどのような変化が起きるのか、生物学的なメカニズムの解明も進められている。
自らも悲嘆に沈んでいた植田さんは、ある研究を偶然見つけた。

自宅からほど近い「国立精神・神経医療研究センター」で行われていた「悲嘆」の脳科学的メカニズムを解明する研究だった。

「ちょうど僕が研究対象者の条件にあてはまったので、協力者として研究に役立ててもらおうと、応募したんです。そうしたら国立精神・神経医療研究センターの助手も募集していた。そちらにも応募したら合格しまして。だから研究対象者でありながら、助手としても働くことになりました」

この研究では、悲嘆が長引く人ほど、亡くなった人への思いが強まる一方で、生きている家族や他人とのつながりに関わる脳活動が低下する可能性が示されている。研究チームはこれを「共感性の偏り」と呼んでいる。

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