米スペースXのIPOは単なる宇宙スタートアップの大型上場ではない。
想定価格は1株当たり135ドル(約2.2万円)、調達額は約750億ドル(約12兆円)、時価総額は約1.75兆ドル(約280兆円)に上るとされる。実現すれば上場初日からテスラなど巨大テックに並ぶ評価を受けることになるが、投資家が注目すべきは、同社が宇宙輸送、衛星通信、AI計算資源、さらにはSNSまで抱えるインフラ企業へ変わろうとしている点である。
稼ぐスターリンク、運ぶスターシップ
スペースXと聞くと、ロケットの「Falcon 9(ファルコン9)」を何度も再使用して飛ばす宇宙関連企業という印象が強いものの、目論見書上の事業区分は「スペース」「コネクティビティー」「AI」の3種類だ。
スペースはロケットの打ち上げ、コネクティビティーは衛星通信のStarlink(スターリンク)、AIは生成AIのGrok(グロック)やデータセンター、そしてSNSの「X」を含む。つまり同社は、外部顧客の衛星を宇宙に運ぶだけでなく、自社で衛星を打ち上げ、通信サービスを売り、その上にAIの計算資源ビジネスまで載せようとしている。
現在の稼ぎ頭はスターリンクだ。
2026年3月末時点で約9600基の衛星を低軌道に持ち、164の国・地域で約1030万の加入者に通信サービスを提供している。山間部や海上、航空機、災害時、軍・政府向けなど、地上回線が届きにくい場所ほど価値が出る。25年の全社売上高は186.7億ドル(約3兆円)、純損失は49.4億ドルだったが、スターリンクは売上高の中心になっており、第1四半期も黒字だったコネクティビティー部門が全体を支えた。赤字の主な背景は「Starship(スターシップ)」などの開発投資とAI投資だ。
スターシップは完全再使用を目指す超大型ロケットで、スターリンクを次の段階へ進めるカギとなっている。大量の衛星やデータセンターなどを一度に運ぶ「宇宙への大型トラック」と考えればよい。従来のファルコン9より多くのスターリンク衛星を運べるため、通信容量拡大などの実現に欠かせない。一方、スターシップの量産や高頻度運用が遅れれば、成長計画全体も後ろ倒しになりやすいため注意したい。
強みは「運ぶ力」と「自ら使う需要」が循環していることだ。スターリンクを広げるには衛星を次々と打ち上げる必要がある。するとロケットの稼働回数が増え、再使用技術や製造効率が磨かれる。打ち上げ単価が下がればスターリンクの採算が改善し、さらに衛星を増やせる。このエコシステムをロケット専業企業や通信企業が実現するのは容易ではない。
第3の柱は「計算資源ビジネス」
この記事は有料会員限定です
残り 1689文字
