1つめは建物全体を改修するプラン。老朽化した空調設備などの改修には約65億円かかると見込まれた。2つめのプランは、不要な部分を解体し、必要部分だけを改修する「減築リノベーション」だ。見積額は約40億円。3つめは、建物を解体して更地を売却するプランである。解体費用に約30億円かかる一方で、土地の売却で得られるのは約15億円と試算された。
そして4つめが、必要最低限部分だけを活用し、残りは閉じるだけにする「閉鎖リノベーション」だった。1階部分だけの改修費用は約2.4億円。他のプランと桁がひとつ違う。
福山市が選んだのは、この4つめの案だった。最も費用負担が小さく、最も早く再生活用できる。何より、これ以上の巨額投資に市民の理解は得られない。
2020年11月、1階部分を運営する民間事業者の公募が始まった。公募要項に示されたコンセプトは、コンテンツが「福山の未来を育てる」、空間が「人と人、人とまちのつながり」だ。また、早期の再生を目指すこと、50%以上のパブリックスペースを設けた「屋根のある公園」とすること、周辺エリア全体の再生を目指すことなども求められた。
今までと同じような商業施設にしても同じ未来しか見えないと、市は企画運営にまったく新しい発想を求めたのだ。貸付期間を7年間としたのは、設備の耐用年数を考慮し、再投資すべきかどうかを見極めるためだった。
見るからにハードルが高いこの公募に手を挙げたのは、わずか2社。
そのうちの1社が、商業施設の運営経験をまったく持たない地元の電気工事会社、福山電業株式会社だった。
「ふきこぼれた」4代目と、退職届に震えた元公務員
福山電業は、電気工事を主とする会社である。第2次世界大戦時、空襲で市街地の8割を焼き尽くされた福山のまちに灯りをともすため、警察署長だった島田薫荘が1946年に創業した。薫荘のひ孫にあたる島田宗輔(しゅうすけ)さんは「ふきこぼれた」少年だった。「ふきこぼれる」とは、授業のレベルが本人の能力に追いついておらず、退屈してしまうことを指す。周りの友人や教師との会話は、大人びた少年には物足りなかった。刺激を求めて東京の大学に進み、卒業後は広告代理店に勤務した。
