彼女はステージに立った瞬間、自分がどう見られているのか、何を求められているのかを完全に理解していた。観客が期待するものを本人が誰よりも正確に把握し、それを過不足なく演じきることができた。機械のような精密さでアイドルの道を貫いた。
特筆すべきは、アイドルとしての自己演出能力の高さである。松浦のパフォーマンスには余分な照れがなかった。アイドルが「かわいく振る舞う」ことには、しばしば自意識のぎこちなさが伴う。やりすぎると媚びているように見えてしまうし、照れが入ると素が見えて理想からは離れてしまう。
しかし、松浦はどちらにも逃げることはなかった。いつでも真正面からかわいく、明るく、堂々としたたたずまいを見せていた。これは簡単なようで実に難しいことだった。
その前の時代とは違って、アイドルであってもメディアの中で素顔に近い姿を見せて、本音を語ることが求められる時代になっていた。そんな中で、松浦は自分を商品化することへのためらいを見せず、同時にその商品性を安っぽく見せない絶妙なバランス感覚があった。それが彼女のプロ意識の表れだった。
歌手としても一流
また、松浦亜弥は歌手としての実力も段違いだった。アイドル的な表情や振り付けだけでなく、歌そのものに問答無用の説得力があった。声の抜けが良く、リズム感があり、どんな楽曲でも歌いこなすことができた。
「アイドルは歌唱力よりも存在感が大事」などと言われることもあるが、松浦の場合は歌唱力と存在感が見事に両立していた。歌が上手いからといってアイドルとしての魅力が薄まるのではなく、歌えることによってアイドルとしての輝きが増していた。
さらに言えば、松浦の本当の魅力は単なる明るさや器用さだけではなかった。むしろ、徹底して明るく振る舞うことで、逆にその奥にある強さや孤独を感じさせるようなところもあった。
