「入れ歯で死ぬ」
日々、死体に向き合う仕事をしていると、「こんなことで人は死ぬのか」と驚くような事例に数多く遭遇します。ある60代女性の不審な死を引き起こした原因は、入れ歯と不運な偶然、そして医療ミスでした。
ある朝、60代の女性が「朝食中にパイナップルと一緒に、総入れ歯を上下とも飲み込んでしまった」と訴えて救急病院に運ばれてきました。「入れ歯なんて大きいものを飲み込めるの?」と思われるかもしれませんが、義歯(入れ歯)の誤飲は、部分入れ歯のみならず総入れ歯でもめずらしくなく、高齢者にとりわけ多くみられます。
この女性の場合は上下ともに総入れ歯でしたが、夫がすぐに救急車を呼び、かけつけた救急隊員によって「上の入れ歯」はその場で無事に摘出されました。ところが、運ばれた先の病院でも「下の入れ歯」が見当たらなかった。
女性は問診後、すぐにX線検査で頸部と胸部、つまり喉と肺のレントゲン写真を撮ったのですが、なにも写っていませんでした。「もしかするとすでに胃に落ちたのでは」という可能性を考えて腹部の撮影も追加しましたが、やはりなにも見当たらない。そして、女性のカルテをみると「精神疾患の既往歴」がある……。そこで診察にあたった医師は、「この精神疾患に多い妄想だろう」と考えたのです。
