一方で、投資家が冷静に見ておくべき点もある。会社の支配構造だ。
上場後もSpaceXは、マスク氏が議決権の多数を握る「支配会社」となる。一般の投資家が買う株式は1株1議決権だが、マスク氏らが持つ別の種類の株式は1株10議決権を持つ仕組みだ。報道では、マスク氏は上場後も85%前後の議決権を握る見通しとされる。ただし具体的な比率はS-1では空欄で、公募の最終条件で確定する。
この構造の下では、一般株主は値上がり益や配当といった経済的なリターンは得られても、経営方針や取締役の選任に実質的な影響を及ぼすことはほぼできない。S-1自身も、この仕組みが株主の影響力を制限すると、リスク要因に明記している。
投資家が買うのは「Starlink+AIへの賭け」
評価額1.75兆〜2兆ドルという数字は、Starlinkという確実な収益源だけでは説明がつかない。2025年の売上高187億ドルを基準にすると、1.75兆ドルでも売上高の90倍を超える。赤字企業として、利益では到底説明できない価格だ。
規模で見ても、時価総額世界首位のNVIDIA(エヌビディア、約5兆ドル)やAppleに次ぐ水準で、マスク氏が率いるTeslaの約1.4兆ドルすら上回る。実績あるソフトウエア大手や半導体大手と肩を並べる評価を、上場時点で得ようとしている。
その差額は、AIへの期待だ。SpaceXが見積もる将来の市場規模は28.5兆ドルと途方もなく、うち26.5兆ドルをAIが占める。だがこの数字には、まだ存在しない軌道上AIデータセンター市場への期待まで織り込まれている。S-1のリスク要因でも、軌道上AIや月面経済といった構想が技術的に未確立で、商業化に至らない可能性があると認めている。
つまり、この価格で投資家が買うのは、Starshipの夢でも軌道上データセンターの構想でもない。Starlinkが生み出す現実のキャッシュフローと、それを元手にしたAIへの壮大な賭けだ。
賭けが回収局面に入るのは、軌道上AIの展開が始まるとされる2028年前後になる。それまでの数年間、私たちのスマホを「圏外」から救うStarlinkの稼ぎが、AIの巨額赤字を支え続けられるかどうか。そこが、この史上最大の上場の成否を分ける。
