では、足りぬ要素は何なのか。仮にヒトの女性やシャチのメスが晩年に至るまで繁殖を続けたとして、どんな不都合があるというのだ?
そう、眼目は不都合だ。閉経しなかった場合に噴出する深刻な不都合がわかれば、それを回避する仕組みとして閉経が進化したと言えるかもしれない。
この点に目を付け、18世紀初頭から20世紀初めまで、実に200年にもわたるフィンランドの人々の生死や家族構成を分析した研究がある。そして女性が老齢まで繁殖を続けた際に起こる、意外な不都合が明らかになった。
1人の女性の末っ子と初孫が同時期に生まれると…
もしも女性が閉経せず、50代、60代、70代と繁殖を続けたらどうなるか。一つの帰結として、母子の同時繁殖が起こる。つまり1人の女性が実の娘と同時期に赤子を産み、それら3世代が家族として同居することになる。閉経の起こる現実世界ではそういうケースは滅多にないが、可能性はゼロでない。
フィンランドのデータでは、若くして第1子をもうけた女性が45歳前後で末っ子を産み、その頃には成人していた彼女の第1子が同時期に自らの子をもうけ、結果的に1人の女性の末っ子と初孫が同い年であるケースが稀に見られた。
するとどうなるか。驚くことに、そうした稀なケースでは、末っ子と初孫双方の生存率が通常の半分程度にまで下がったのである。
考えられる理由は一つ。母かつ祖母である当の女性と、母になったばかりの彼女の第1子が、限られた資源をめぐって対立してしまうのだ。現代よりもよほど食糧の乏しく、医療の未発達だった時代のことである。いちどきに複数の幼子を養育するとなると、家庭内の資源分配が切迫する。

