日本・フィリピン間の安全保障分野の緊密化は、第2次安倍晋三政権下で進んだ。
フィリピン・ルソン島沖の排他的経済水域(EEZ)にあるスカボロー礁で12年、中国とフィリピンの艦船がにらみあう事態となったが、フィリピンは船舶不足で中国の実効支配を許した。
時のアキノ政権の要請を受け、日本政府は13年7月、フィリピン沿岸警備隊(PCG)に44メートル級の巡視艇10隻を円借款で供与することを決めた。その後、97メートル級の巡視船2隻が供与され、今後は5隻が追加される予定だ。
南シナ海で中国海警局の艦船に放水されたり、体当たりされたりするPCG巡視船艇の映像はニュースでたびたび流れるが、中国の攻撃や嫌がらせに遭うフィリピン側の船艇のほとんどは日本のODA船なのだ。
巡視船艇の供与だけでなく、海上保安庁はPCG隊員の訓練や補修の手助け、ゴムボートの供与なども担っており、PCGの活動は現在、海保に「おんぶにだっこ」の状態といっても過言ではない。
機関砲や防弾ガラスを装備する巡視船はかつて、輸出品目で「武器」に相当するとされ、禁輸品扱いだった。ところが第1次安倍政権下の07年、沿岸警備は警察活動であって軍事とは違うという理屈でこれを解除した。
第2次安倍政権は14年、原則禁止だった武器輸出を見直して同志国に輸出できるよう防衛装備移転三原則を制定した。初めての案件として23年、警戒管制レーダーがフィリピンに納入された。
その三原則の運用を変えて、武器輸出をほぼ無制限に推進しようとする高市政権にとって、とば口となるマルコス政権は極めて貴重な存在だ。
フィリピンは今年、東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国を務める。他の加盟国が米中対立に巻き込まれることを嫌って洞ヶ峠を決め込む中、安全保障面で旗幟鮮明に中国と対峙するのはマルコス政権だけ。日本政府が厚遇するわけである。
マルコス政権下で加速する日比準同盟化
実際にマルコス政権が22年に発足した後、日本との防衛協力は一気に加速した。
24年7月には自衛隊とフィリピン国軍が共同訓練などで相互に訪問しやすくする「円滑化協定(RAA)」が署名された。
25年4月にフィリピンを訪れた石破茂首相(当時)は「今や日本とフィリピンは同盟に近いパートナーになった」と宣言し、日本のマスコミは両国関係を「準同盟級に格上げ」とはやし立てた。
今年1月、自衛隊とフィリピン国軍との間で物資を融通し合う物品役務相互提供協定(ACSA)に両国外相が署名した。今回の首脳会談では、軍事情報共有の円滑化を目指す軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の締結へ向けて協議を始めることで合意する見通しだ。
23年にODAとは別枠で始まった軍事支援の枠組み、政府安全保障能力強化支援(OSA)でフィリピンには監視レーダーや陸揚げ施設などの供与が3年連続で決定している。高市首相は今回、4年連続の供与を表明する予定だ。3年以上の連続供与はほかに例がない。
しかしながらマルコス政権への肩入れは、危うさもはらんでいることは忘れてはならない。マルコス政権の基盤が極めて不安定だからだ。
スタグフレーションを認めるマルコス大統領
フィリピンは過去数年、ASEANの中でもトップ級の成長率を維持していたが、その経済が大きく失速し、危機的状況に陥っている。
GDP(国内総生産)成長率はマルコス政権誕生の22年には前年比7.6%を記録した。その後、23年は同5.5%、24年も同5.7%と堅調だったが、25年になって同4.4%へ落ち込み、政府目標の同6~8%を大きく下回った。
詳細に見ると、25年も上半期は前期比年率5%台を維持していたが、第3四半期にはこれが4.0%、第4四半期に3.0%、さらに26年第1四半期には2.8%へ落ち込んだ。いずれも本格的な中東危機前の数字である。
フィリピンは原油輸入の97%を中東に依存しており、ガソリンスタンドの軽油価格は危機前の60ペソ前後(約150円)から一時130ペソ(約335円)まで跳ね上がった。政権は「国家エネルギー非常事態」を宣言した。
25年中は前年比1~2%の上昇と落ち着いていた消費者物価指数も26年3月に同4.1%と政府の目標値を超え、4月にはついに同7.2%へ急上昇した。対米ドルのレートも1ドル=61ペソ台で日々最安値を更新し、株価も昨年以来、低迷が続く。
景気後退とインフレが同時進行し、マルコス氏は5月18日、日本メディアとの会見で「スタグフレーションの懸念がある」と認めざるをえなくなった。
さらに、それ以上に深刻なのは政局の混乱だ。
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【政局は制御困難な様相に】
