しかし建物が完成しても、入居者がすぐに集まるわけではない。鮎川さんはノビシロハウスの存在を知ってもらうため、高齢者の多くが利用するテレビや新聞を通じて情報を発信。少しずつ問い合わせが増え、半年ほどで満室になった。
「お節介すぎない関係」が成立するアパート
では実際に、ノビシロハウスではどのような暮らしが営まれているのか。
印象的なエピソードがある。はじめてひとり暮らしをすることになったソーシャルワーカーの男子学生が、お茶会で「せっかくだから自炊をしたい」と言ったそうだ。すると70代の女性がこう応じた。
「じゃあ、お買い物から一緒に行きましょう」
スーパーで食材を選ぶところからはじまり、レシピを一緒に考え、つくって、食べる。それが月に1回のペースで約2年続き、学生は少しずつレパートリーを増やしていったという。
「友達になったらするようなことなんです。たとえば一緒にご飯を食べに行ったり、お出かけしたり、共通の趣味を一緒にやったり。そういう自然な交流が生まれているのが、いちばん良かったなと思います」
若者からはこんな声も聞こえてくる。「戦争を経験した人の話は、10代・20代だと普通なら聞けない」「高度経済成長期を現役で生きた人に、自分の悩みを重ねて相談できた」。古き良き時代の日本には普通にあった「お隣さんとの会話」が、ここにはあるのだ。
一方で、開設当初は想定外のことも起きた。
「私たちは福祉サービスや介護はしないと明言していました。家賃しかいただいてませんから。でも報道を見て『なんでもやってくれる住宅』だと期待した入居者の家族がいらっしゃって。私たちはその期待に気づけなかったんです」
そのご家族はノビシロに「なんで毎日来てくれないの」と連絡をすることもあった。何度も話し合ったが理解を得られず、約1年で退去に至ったという。
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【価値観に共感した人々が集まる住宅】
