あとでわかったことだが、その不動産会社は「フリーレント1カ月」をスタンダードで提供している会社だった。「1日」のフリーレントを売りにするはずがない。だとすれば、浮いた差額分は担当者の懐に入ったとも考えられる。
なぜこんな営業がまかり通るのか。鮎川さんが行き着いた答えは、個人の資質ではなく「構造」の問題だということだった。
不動産仲介業者の報酬は法律で賃料の1カ月分が上限と決まっている。集客にも広告費がかかるため、来店した客に契約してもらわないと赤字になる。営業の給料は歩合制が多く、客の満足は二の次――。それが当時の不動産仲介営業の実態だった。
「給与体系や集客方法を変えなければ、結局同じことの繰り返し。だったら自分でやろうと思ったんです」
他社で断られてきた人が集まる不動産会社
半年後の2012年4月、鮎川さんは不動産仲介会社「エドボンド」の代表に就いた。業界のカラーに染まっていないことは、むしろ強みになった。既存の枠組みにとらわれず、理想の会社を一からつくり上げることができたからだ。
エドボンドでは広告は一切出さず、口コミと紹介だけで集客する方針を徹底した。
「起業したばかりの頃は、お客様も少なくて本当に苦しかったです。でも私みたいな辛い思いをする人がいないようにと一人ひとりの相談に向き合ううち、少しずつ『あそこは親身になってくれたよ』『強引な営業もされなかった』という評判が広がっていきました」
次ページが続きます:
【「仲介を断らない」信念で仕事を続けたが…】
