鉄道の保安装置の設置は、新線建設のような目に見える成果がなく、政治家にとってうまみがない。しかも、鉄道の恩恵を受けているのはインドネシア全土で見ればごく一部のエリアに過ぎず、そこに莫大な予算を割くことに国民の理解が得られないという問題もある。
しかし、保安装置が整備されていないインドネシアの鉄道では、残念ながら数年に一度、追突や衝突事故が発生しているのが実情だ。これを契機に保安装置設置に向けたアクションが起きなければ、再び同様の事故が繰り返されることになる。
ジャカルタ首都圏の通勤路線といえば、日本の中古車両が多数活躍することで知られ、今回の事故で追突され大破したのも、元東京メトロ千代田線で活躍していた6000系車両である。日本人にとって、その点でも非常に心が痛む事故である。
最後尾車両の4分の3ほどまで特急の機関車がめり込み、6000系の最後尾車は台枠ごとえぐり取られてしまっている。死者が発生したのは、全てこの車両からだ。もし、超満員の時間帯に事故が発生したと思うとぞっとする。
「イノシシがウサギに体当たりしたようなもの」
一方、追突した特急列車は、機関士が負傷したものの命に別状はなかった。6000系に突っ込んだ機関車は運転台すら原型を留めており、乗客の被害もほぼなかった。ここに、今回の事故の特殊性がある。
「日本の電車(JIS規格)は保安装置に守られることを前提に、車端圧縮荷重(車両の端部にかかる押し合う力)50トンに設定されている。そこに衝突ありきで設計されている頑丈なアメリカ製の機関車が突っ込んだ。イノシシが突進してウサギに体当たりしたようなもの」と説明するのは、インドのメトロコンサルタントで、ジャカルタでの業務経験もある技術士の辻村功氏だ。インドでは、保安装置があるメトロでも車端圧縮荷重は120トンに規定されているという。
日本の中古車両が多い通勤電車を除けば、インドネシアの鉄道の主流はアメリカ製の機関車がインドネシア製客車を牽引する列車だ。アメリカの鉄道業界団体、AAR(Association of American Railroads)が定める機関車の車端圧縮荷重は300トンと、日本の車両とは桁違いの強度がある。ちなみにUIC(国際鉄道連合)規格では200トンだ。
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【三者三様の提案で導入決まらず】
