今回の追突事故は、なぜ特急列車が停まれなかったのかが最大の焦点だ。
このような事故は、現在の日本であれば基本的に起きることはない。踏切で上り電車とタクシーの事故が起きた時点で、上り電車が「防護無線」を発報すれば、下り電車も下り特急も全て停車する。防護無線とはトラブルが起きた際、周辺の列車を巻き込まないよう知らせる信号で、日本の電車内で「周囲の電車に危険を知らせる信号があったため――」などと車内放送で聞いたことがある人も多いだろう。
また、鉄道の信号システムでは、下り電車が停まっていれば、その後方には赤信号(停止)が出る。ATS(自動列車停止装置)などがあれば、自ずと特急列車は停車していたはずだ。
しかし、そのような安全を守る保安装置類は全く整備されておらず、特急列車は停まらなかった。乗務員の目視にのみ頼っているインドネシア鉄道(KAI)では、信号の見落としは命取りとなる。
衝突直前までブレーキなし?
一部の証言によれば、踏切事故の発生後、上り電車の運転士は指令所に連絡を入れており、ただちに指令所は通勤電車各列車の運転士に対して通達を行った模様だ。下り5568A電車もこれによって停車したものとみられるが、通勤電車の運行を管理しているのは通勤鉄道会社のKCIで、特急など長距離列車の運行はKAIだ。両者の連携不足やタイムロスも指摘されている。
また、別の証言もある。特急列車の補助機関士によると、同列車は一つ手前のブカシ駅の出発信号機を青(進行)現示で通過したが、次の信号機(閉塞信号機)がいきなり赤(停止)現示で、ブレーキが間に合わなかったという。
ブカシティムール駅に先行電車が停車中で、この信号機が赤を現示しているのなら、本来はブカシ駅の出発信号機は黄色(注意)を示していなければならない。もしこの証言が正しいなら、信号システムにエラーがあったのか、導入時から設計ミスがあったということになる。
ただ、特急の乗客が偶然配信していたライブ動画から、列車は衝突直前までブレーキをかける様子がなかったことがわかっている。警笛を鳴らすのも、あまりにもタイミングが遅い。前方の赤信号に気づいていれば、ある程度の減速はできていたはずである。
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【「常に青信号」で走る特急列車】
