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政治・経済・投資 #狂気に正気で立ち向かった男・中村哲

井戸掘削や用水路建設を担ったロスジェネ世代…人生に迷う彼らは「わしは馬鹿やけんね」と語る中村哲の懐に飛び込んだ

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(撮影:西谷文和)

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大国の「力による支配」が横行する現代。世界を戦争の狂気が覆っている。
「イランを石器時代へ逆戻りさせる」と述べたアメリカのトランプ大統領は、記者から「発電所への攻撃は戦争犯罪ではないか」と質されると、イランの体制側が多くの反体制派を殺したと指摘。そのうえで「彼らは動物だ」と言い放った。
かつてナチス・ドイツはユダヤ人を「ネズミ」「害虫」などに例えて「脱人間化」を図り、加害の心理的ハードルを下げて、ホロコースト(大量虐殺)を行った。人間を動物に貶めて殺害する、最も危険な人間観を米大統領が口にする時代が到来したのだ。
これが国際政治のリアリズムだと訳知り顔で語る人は多いが、医師の中村哲さん(2019年12月4日没・享年73)は、世界を覆った狂気に一貫して正気で挑んだ。
デジタル連載【狂気に正気で立ち向かった男・中村哲】の第2回目は、中村哲という人間に引き付けられ、アフガニスタンに飛んだロストジェネレーション世代の若者たちの心模様を描く。

1984年春、パキスタン北西辺境部のペシャワールへ、ハンセン病の医療活動に向けて旅立とうとしていた中村さんに、次のような「批判」が寄せられた。

「国内でもすべきことは沢山あるのに、なぜ外国までわざわざ出かけようとするのか」「現地には現地のやり方があり、彼らが自力で解決すべきで、外国人が親切の押し売りをするのは疑問である」(ペシャワール会報2号より)

中村さんは、いちいち反論しないとしつつ、次のように応じている。

「人は何処にあっても、どんな立場であっても、それぞれのやり方で、それぞれの重荷を負い合って生きてゆくよう召され(役割を与えられ)ている。これがわたしたちの出発点であり、くりかえし、立ちかえってゆくべき共通点。それは、あらゆる立場、あらゆる国境を越えてすべての人間に及ぼされるものであります。『医療が金にかえられない仕事(医は仁術)である』という倫理観もここからきています」(同前)

世界をかろうじて破滅から守っているもの

さらに「現地のことは現地に。親切の押し売りをするのか」という批判には、「すべての『繁栄』というものは、弱者の犠牲のうえに築かれたことを否定するものはいますまい。もし日本に平和と平等があるのだとすれば、それは、コップの中の平和と平等である。その中にあるわたしたちが、『自力更生が原則である』といって、自ら何もしなければ、それは結局『人のことまでそうかまっておられるか』という態度の別の表現でしかない」と切り返し、「援助」については次のように記した。

「われわれの『援助』が『お恵み』ではなく、自助を助けるものであるべきことはいうまでもありません。世界が金と力で動かされ、利己主義や敵意、我執や妬みで満ちているとはいえ、この世界をかろうじて破滅から守っているのは、このような『支え合う』という善意の努力かもしれません」(同前)

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