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「腐りやすい不人気魚」が王道寿司ネタになった訳――マグロのトロ、サーモン、エビ…常識を覆した日本人の観察眼

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寿司
日本を代表する料理である「寿司」は、時代の移り変わりとともに進化してきました(写真:jazzman/PIXTA)
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人々が好んだのは、赤身を醤油に漬け込んだ「づけマグロ」。漬け込むことで保存性が高まり、旨みが増す。つまり、漬けるという“知恵”によって生まれた味でした。

そんな寿司の世界が大きく変わったのは、戦後のこと。

冷蔵・冷凍技術が発達し、遠洋マグロ漁が盛んになると、世界の海で獲れたマグロが冷凍されたまま都市へ届くようになりました。

これによって、赤身だけでなく、これまで敬遠されていたトロが一躍脚光を浴びるようになります。脂の甘みをそのまま楽しめる“生マグロ”の登場は、寿司にとって革命的な出来事でした。

「づけマグロ」から「生マグロ」へ。それは、寿司が保存のための料理から、素材の鮮度を味わう料理へと生まれ変わった瞬間だったのです。

“安全な食べ方”→“贅沢な味”へ

エビもまた、時代とともに姿を変えてきました。

江戸前寿司では、エビは加熱して使うものでした。熱が加わったときの朱色の美しさは、祝いの席にもぴったりで、生食は衛生面からも避けられていました。

しかし、1970年代頃、冷蔵・冷凍流通が進むと北陸や北海道で獲れる甘エビ(ホッコクアカエビ)やボタンエビが市場に出回るようになります。

生でも安心して食べられるエビが登場し、「蒸しエビ」から「生エビ」へと主役の座が移っていきました。

ねっとりと舌に絡む甘みと、透き通るような身の美しさ。かつて“危険だから避けた”食べ方が、今では“贅沢な味”として定着したのです。時代の変化とは、なんとも不思議なものです。

また、コハダやサバなどの光り物も、昔は強い酢で締めて保存性を高めていました。しかし現代では、軽く酢で締める“浅締め”が主流です。酢を使う目的が、保存性を高めることから、素材の新鮮さを活かし、旨みを引き出す方向へと変わっていったのです。

そして1970年代以降の冷凍、空輸技術の発達は、寿司の世界をさらに広げました。

繊細な食材である魚介類は、かつては産地でしか味わえなかったもの。それが今では、東京でもニューヨークでも楽しめる。冷凍技術の発達によって産地の味が完全にそのままとは言わないまでも時間と距離を超えて届くようになりました。

寿司は地域の料理から、全国、そして世界の食文化へと成長していきました。

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【江戸から引き継がれる技】

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