天才なら殴ってもいい?顔面を殴打、壁に叩きつけ…「世界最高のシェフ」が暴力告発で辞任の衝撃も"氷山の一角"の実態

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さらに、「天才への免罪」という構造も看過できない。高い料理の才能が、人格的な問題すべてを覆い隠す免罪符として機能してきたのだ。「あれだけ美しい料理を作れるのだから」という論理が、告発を封じ込める力を持っていた。

ノーマの料理
(写真:レネ・レゼピ氏のInstagramより)
ノーマの料理
(写真:レネ・レゼピ氏のInstagramより)

変わりつつある厨房の風景

潮目は確実に変わりつつある。

MeToo運動以降、アメリカの全米レストラン協会はハラスメント研修を業界標準プログラムとして整備した。アメリカ料理界のアカデミー賞を授与するジェームズ・ビアード財団も倫理規定に違反したシェフが関与するレストランを賞の選考から除外することを決定し、「沈黙と共犯の文化を終わらせる」と宣言した。

SNSの普及もゲームチェンジャーとなった。今回のレゼピ氏への告発でも、1人の元スタッフのInstagram投稿が56人以上の声を集めるまでに至った。かつては密室に閉じ込められていた厨房の実態が、いまや外部の目にさらされる時代になったのだ。

Noma自身も危機対応として、有給インターン制度の導入、労働時間の改善、HR部門の設置、メンタリングプログラムの整備など、職場改革を進めていたと声明で明かした。これが本質的な変化なのか、それとも批判をかわすための表面的な対応なのかは、今後の行方を見守るほかない。

文化的な側面からも変化は起きている。ドラマシリーズ「ザ・ベア」は、厨房の過酷な階層関係やトラウマを生々しく描き、世界中の視聴者に「美食の裏側」を可視化した。

料理人でない一般の人々が厨房の実態を知り、問題意識を持ち始めたことの意義は大きい。日本でも、20年代に入り段階的に施行されたパワハラ防止法を機に、飲食業界でのハラスメント対策への意識が少しずつ高まっている。若い世代の料理人の多くは、上からの暴力を「修業の一環」として受け入れることを拒否している。

世界的なカリスマシェフをめぐる報道は、食業界がこれまでの悪しき慣習と決別し、新たなステージへ進むための重要な試金石である。

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