天才なら殴ってもいい?顔面を殴打、壁に叩きつけ…「世界最高のシェフ」が暴力告発で辞任の衝撃も"氷山の一角"の実態

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アメリカでも17年のMeToo運動を機に、著名シェフのマリオ・バターリ氏やジョン・ベッシュ氏が性的ハラスメントで次々と告発された。バターリ氏は自身のレストランから手を引き、ベッシュ氏は経営するレストラングループのトップを辞任した。研究者たちはこれらを「個人の逸脱」ではなく、業界構造が生み出した必然として分析している。

日本も例外ではない。フランス料理界の「カリスマ」として知られたシェフは06年、仕事の遅さに激怒して男性社員に電話の受話器を投げつけ顔を殴打したとして、傷害容疑で書類送検される事態となった。日本においても名声あるシェフによる暴力が表面化した先駆的な事例として記憶された。

なぜ厨房は暴力を生むのか

ノーマの店内の様子
ノーマの店内の様子(写真:レネ・レゼピ氏のInstagramより)

厨房という空間には、暴力が温存されやすい構造的な条件が重なっている。

第1に、「ブリガード(旅団)」と呼ばれる軍隊式の階層構造だ。フランス料理が世界のファインダイニングのモデルとなって以降、厨房はシェフを頂点とする厳格なピラミッド型に組織されてきた。シェフの命令は絶対であり、怒鳴り声や恫喝が「正当な指導」として長年黙認されてきた。

第2に、「沈黙の強制」だ。元Nomaスタッフたちが証言するように、従業員たちはブラックリスト入りや解雇、あるいは就労ビザの問題まで持ち出した脅しを恐れ、声を上げることができなかった。才能ある若者が世界最高の厨房で修業したいという強い憧れが、その弱みにつけ込まれる温床ともなっていた。

第3に、暴力の「連鎖と正当化」だ。かつて殴られ蹴られた経験を持つ料理人が、同じことを部下に繰り返す。「自分もそうされてきたから」という論理が暴力を継承させ、それを「職人の世界の掟」として美化する文化が定着してしまう。日本の調理の世界でも「板前は厳しいもの」というイメージの陰に、同様の連鎖が潜んでいることは否定できない。

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